2024年 04月29日(月)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2023.05.02 08:00

小社会 おまんら夫婦になれ

SHARE

 あちらこちらに美しいフィクションが散りばめられている。万太郎は愛した母の思い出をバイカオウレンの小さく可憐(かれん)な花に重ね合わせて生きている。万太郎のモデルである牧野富太郎博士は晩年の著書「自叙伝」の中で〈親の味というものを知らない〉と書いている。母の記憶はなく、自分は祖母に育てられたのだと。

 「らんまん」というドラマにおいて万太郎が母と過ごす時間をつくってあげたことは、脚本家の優しさである。博士は生涯愛したバイカオウレンに母性の面影も感じていたのではないか。そんな想像も誘う。

 博士に姉はいなかったが、ドラマでは姉の役を置いた。当主の万太郎よりも酒蔵の経営に意欲を持つ。史実をひもとけば、博士は寿衛(すえ)と結婚する前、故郷に「妻」というべき存在の女性がいた。「猶(なお)」である。

 富太郎とは縁戚の関係にあった。結婚は酒蔵を存続させるための方策で、祖母の強い意向があったからとも考えられている。博士のひ孫の牧野一浡(かずおき)さんは「2人に本当の夫婦の関係はなかったんじゃないかなあ」と推測する。

 「おまんら夫婦(めおと)になれ」。松坂慶子さん演じる祖母タキが姉弟に命じるシーンは、いくらなんでもそれはと思っただろう。

 けれど史実をふまえてみれば、姉という役をつくって猶という女性の存在を重ね合わせていることが分かる。猶をいなかったことにしていない。これも美しいフィクションである。

高知のニュース 小社会

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月