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2023.04.28 08:00

【縮小社会へ】課題先送りは許されぬ

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 社会の在り方に転換を迫る推計にほかならない。人口減少は国民生活のあらゆる場面に影響を及ぼす。未来像は確かに厳しいものの、事前に想定できた問題でもある。限られた時間のなかで、いかに社会の変化に備えるかが重要になる。
 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が、50年後の人口推計を公表した。2056年に1億人を割り込み、70年には8700万人に減少するとした。縮小する社会を直視し、着実な対策が求められる。
 推計はおおむね5年ごとに実施され、今回は20年の国勢調査などを基に推計した。その結果、17年の前回推計より、わずかに減少の速度が緩んだ。日本人の平均寿命がさらに延び、日本に住む外国人の割合が20年の2・2%から70年には10・8%に上昇すると見込む。
 だが、減少傾向は変わらない。女性1人が生涯に産む子どもの人数を示す「合計特殊出生率」は前回の1・44(65年)から1・36(70年)へと下方修正。人口維持に必要とされる目安2・07を大きく下回る。昨年80万人を割った出生数は70年には50万人まで減少するとした。
 高齢化率は少子化もあって上昇し続け、70年には38・7%に達する。一方、15~64歳の生産年齢人口は減少が続き、今後50年間で現在から4割減の4500万人余りとなる見通しだ。「超高齢社会」の姿が浮かび上がる。
 そんな未来像に不安も募る。例えば、公的年金は現役世代が支払う保険料を高齢者の給付に充てる「仕送り方式」。医療や介護も高齢者の費用の一部を現役世代が負担する。支え手が減れば、給付水準の引き下げや負担増につながりかねない。利用者減少は公共サービスや公共交通も直撃する。
 ただ、こうした数字はあくまで将来の予測だ。人口増加への反転は難しくても、将来を見据えて対応する時間はまだある。岸田文雄政権が進める少子化対策や外国人労働者の受け入れ態勢の見直しは、いよいよその必要に迫られたからだろう。
 少子化対策の政府試案には児童手当の拡充といった具体策が並ぶが、肝心の財源は示されないままだ。新たな負担となれば施策の効果も打ち消されかねない。賃上げや社会保障といった将来不安の要素も一体的に対応する視点も欠かせない。
 今回の推計では外国人の増加を見込むが、楽観的との見方もある。技能実習制度の抜本的な見直しが進むが、待遇の改善や人権を尊重した環境を確保できるかどうか。世界的に人材の獲得競争が激しくなるなか、「選ばれる労働市場」になれなければ、日本経済の縮小も一層加速する恐れがある。
 政府はこれまで、人口増加を前提とした社会システムのひずみを弥縫(びほう)策でしのいできた。その結果が国民の将来不安につながり、少子化の深刻化を招いたとの指摘もある。超高齢社会へ、今後はあらゆる問題で構造改革を含めた対応を迫られる。課題の先送りはもう許されない。

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