2023.04.25 08:00
小社会 初任給
30年余り前の筆者は何に使ったのか、実は記憶がない。右も左も分からない報道職場で余裕がなかったからだろう。一般には、親への感謝を込めた贈り物や、自分へのご褒美の少しぜいたくな食事や買い物あたりだろうか。
この春は、人材確保を狙って初任給を引き上げる企業のニュースが目立つ。では、受け取る側の使い道は。ソニー生命の調査によると、1位は貯蓄で2位が生活費。3~5位にやっと親や自分への特別な出費がくる。これも物価高騰の世相を映しているのかもしれない。
こんな使い方もある。昨秋、日本新聞協会のエッセーコンテストで最優秀賞に選ばれた、神奈川県に住む50代主婦の体験談。ある日、スーツ姿の見知らぬ青年が自宅を訪ねてきた。菓子折りを差し出し、深々と頭を下げる。
聞けば青年は7年間、新聞配達をしていた。元旦は毎年、高齢の母が玄関先で待っていて「大変だね」とお年玉袋を握らせていたそう。「就職して初任給をもらったので、お礼に来ました」。入院先でそれを聞いた母の目に涙があふれた―。優しさと律義さの交流。世の中まだ捨てたものではないと思えてくる。
記憶がない筆者が言うのも少々はばかられるが、ぜひ、いい使い方を。