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2023.04.23 08:00

【知床事故1年】安全運航の意識を高めて

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 安全をないがしろにすると甚大な被害をもたらすことを見せつけた。事故を検証し、反省を今後の安全運航に生かすことが重要だ。
 北海道・知床半島沖の観光船「KAZU(カズ) Ⅰ(ワン)」沈没事故から1年になる。乗客乗員26人が乗ったカズワンは、知床半島西側の沖合で沈没した。20人の死亡が確認され、6人の行方が分かっていない。
 こうした事故がなぜ起きたのか、真剣に向き合う必要がある。運輸安全委員会が公表した経過報告は、船首付近の甲板にあるハッチのふたが密閉されず、海水が入ったと推定している。船内を仕切る隔壁にあった開口部を通じて浸水が広がり、沈没したとの見方を示した。
 要因は船体構造にとどまらない。沈没地点の波は、運航会社が運航中断の基準とする高さを大きく上回っていたと推察されるなど、出航判断や運航会社による安全管理規定の軽視などを指摘した。
 さらに、北海道運輸局の監査や日本小型船舶検査機構(JCI)の船舶検査は実効性に問題があったと言及した。JCIはハッチのふたの留め具の作動状況を確認せず、また一部携帯電話会社のエリア外だったのに衛星電話からの通信設備変更を認めていた。運航会社にとどまらず、安全意識が問われている。
 国土交通省は、沈没事故を受けて小型旅客船の新たな安全対策をまとめた。甲板全体を密閉し、高い波が打ち付けても船体下部が浸水しない構造にすることの義務化を打ち出した。また、座礁や衝突で一区画が浸水しても船全体に広がらないように、甲板下の空間を仕切る隔壁の設置を求めている。
 対応が難しい既存の船などには代替措置を義務付ける。沈みにくい船体へと構造を改善していくことは、事故を防ぐ基礎的な対応だ。確実な実施が必要になる。
 それに加え、安全運航の意識を高めることが不可欠だ。法令違反など情報公開の充実も図る。安全面への取り組みを乗客側が確認できることは望ましく、違反行為の抑止効果も期待できるだろう。ただ、そもそも違反が許されないことをしっかりと認識することが基本となる。
 乗客家族は先日の会見で、運航会社社長に家族や社会への説明責任を果たすよう訴えた。また事故の一因とされるハッチの不具合に関し、国などの監査や検査を通して安全管理体制を是正できなかったことが事故を招いたと批判した。「防げた事故」という家族の無念を受け止め、再発防止に取り組むことが重要だ。
 事故を防ぐ手だてを積み重ねるとともに、万一の場合への備えも充実させる必要がある。海水温が低いときの救命胴衣の在り方などの検討を求める意見もある。あらゆる方面から安全性の向上を図りたい。
 経営効率を優先するあまり、安全が確保できないようでは本末転倒だ。事故が起きればその地域の観光事業全般への影響も想定される。一事業者の問題ではないことを十分に認識した対応が求められる。

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