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2023.04.22 08:00

【学術会議見直し】改正案見送りは当然だ

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 人事介入は組織の在り方をゆがめる。無理もない懸念だろう。政府が改正案を力任せに押し付けようとするほど、学術界の疑念も膨らむ。現状はそんな悪循環に陥っているようにみえる。まずは信頼関係を取り戻す必要がある。
 会員選考方法の見直しを盛り込む日本学術会議法改正案に関し、政府が今国会への提出を断念した。日本学術会議は総会で提出見送りと、協議の場を設けるよう政府に求めていた。政治と科学の決定的な対立を避けるには当然の判断といえる。
 政府は学術会議改革へ、会員選考に関与する第三者組織「選考諮問委員会」の新設を柱とする見直し案を昨年12月に公表した。現行は会員らの選んだ候補者を首相が任命する仕組みで、首相の任命権は「形式的」とされてきた。これを、選考時にあらかじめ諮問委の意見を聞き、その意見を「尊重しなければならない」形へと変更する内容だ。
 見直し案を巡って、政府と学術会議の主張は平行線をたどった。学術会議側は組織の独立性が損なわれる恐れを指摘。今回の総会では学術会議法に基づく、最も強い意思表明である「勧告」の形を取って拒否姿勢を示した。
 これを受け、政府は提出見送りに追い込まれた格好だ。国内外の科学者に懸念が広がり、野党も反対姿勢を示している。世論への影響を避けたかったのだろう。政府は「選考に介入する意図はない」としたが、見直し案は中立性をどう担保するかが不透明だった。いったんは提出を見送るが、それでも政府側は「会員選考に透明性が必要」と法改正自体は断念していない。
 組織の独立性は人事を含めた自律的な運営があってこそ保たれる。むろん、学術会議にも透明性を高める姿勢は求められるが、自主的な取り組みが重要だ。独立性が危惧される方法を取る必要はない。学術会議側が政府の説明を額面通り受け取れないのも当然だろう。
 そうした疑念を政府自らが膨らませてきた側面もある。学術会議の見直し論はそもそも、学術会議が推薦した会員候補6人の任命を、当時の菅義偉首相が拒否したことに端を発する。この6人は過去に政府法案などに反対していた。説明を求める学術会議に対し、政府は理由を明らかにしてこなかった。
 見直し案公表後も、政府は経費の国費負担や民間法人化をちらつかせて、学術会議側をけん制する。あまりに一方的な姿勢ではないか。
 学術会議は科学が戦争に利用された反省にたち、独立した立場で科学的観点から助言してきた。近年は、地球温暖化対策や倫理的問題をはらむ先進医療など科学的、専門的な知見はより重要さを増している。政府方針とは相いれない研究や言論を封じ込めば、長期的な科学や社会の発展に暗い影を落としかねない。
 政府はまず、任命拒否の理由を明らかにして、自らの説明責任を果たすべきだ。こじれた関係の修復も急がれる。

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