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2023.04.29 08:30

「シン・マキノ伝」最終第6部スタート! 牧野博士を「操縦」する 【63】田中純子(牧野記念庭園学芸員)

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木の間からおどける牧野富太郎(高知県立牧野植物園所蔵)

木の間からおどける牧野富太郎(高知県立牧野植物園所蔵)



 昭和12年1月に牧野富太郎は、朝日新聞社から昭和11年度の朝日文化賞を受けた。受賞は、昭和9年から11年にかけて出版された「牧野植物学全集」(全6巻・総索引、誠文堂新光社)の業績が認められたことによる。この出版は牧野の過去50年間にわたる植物研究の集大成をなすものであった。牧野の自叙伝には、朝日新聞に掲載された記事と、牧野が受賞した賞牌に記された文章も掲げられた。後者は「日本植物分類の研究 本邦の植物分類に専念すること五十年、この全的努力は遂に昭和十一年十一月牧野植物学全集を完成し、わが植物学界に貢献すること多大なり。右貴下の功績を賞讃し、本社朝日文化賞規定により表彰候也。」とあり、牧野の植物分類学における努力と貢献が評価されたことが分かる。

 この全集は「日本植物図説集」「植物随筆集」「植物集説上・下」「植物分類研究上・下」からなる。第1冊では「日本植物志図篇」をはじめとして牧野の植物図とそれに併せた解説が収録され、第2冊以降は「植物学雑誌」や「植物研究雑誌」、その他もろもろの雑誌に掲載した数々の論考が収められている。これらは和文ばかりであるが、第6巻には「別巻『欧文植物学論文集』の刊行について」という紙片が、「総索引の刊行について」と書かれた別の紙片とともに挟み込まれてある。前者には、「博士自身の筆になる多数の精密なる写生図と共に先生の英文に依る記載たるや、微に入り細に亘り、その精緻にしてしかも正確なる、全く世界学界にその類を見ざるもので」あり、「牧野植物学全集」が肉付けであるならば本書はその骨格をなすものであると評されるが、残念ながら「欧文植物学論文集」は出版されなかったと見られる。

 さて、同全集の編さんに当たって、助けてもらったと牧野が感謝する人物がいた。それは石井勇義(1892~1953年)である。石井は、昭和前期に「実際園芸」(戦後は「農耕と園芸」に改名して刊行)という雑誌の主宰を務め、同誌や「原色園芸植物図譜」の刊行により園芸愛好者に親しまれ、かつ園芸知識の普及に貢献した園芸家で、昭和20(1945)年に恵泉女子農芸専門学校(後の恵泉女学園短期大学)の設立に寄与し亡くなるまで教授を務めた。

 牧野は「植物集説 下」(第4巻であるが最後に出版された)の「終冊ノ巻首ニ叙ス」において、牧野を助けた石井について次のように述べる。すなわち他人がどうなってもわれ関せずで、自分のことだけを通そうとする人が多い現代にあって「石井君ノ私ニ対スル同情ハ実ニ尊イモノガアル、…

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