2023.04.15 08:35
天からこぼれた一滴 ハルリンドウ―ふるさとの花ごよみ(4)
木漏れ日のスポットライトに輝くハルリンドウ(写真はいずれも香美市の県立甫喜ケ峰森林公園)
てくてく登ってきた南国市の60代夫婦は「踏んでしまいそうになって、慌てました」と笑う。顔を近づけ「空より濃い、きれいな青」とつぶやいた。
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リンドウといえば、秋のイメージだろう。ハルリンドウは、同じリンドウ科でも春咲き。花期の後、種子から芽吹き、ひと冬を越してから開花する。
同森林公園を管理する県山林協会の佐藤知幸さん(64)によると、例年の見頃は4月のおよそ1カ月間。新緑の芽吹きとともに現れ、生い茂る草木に追われるように消えていく。
公園内の自生地は数カ所で、芝生や山道脇、道路沿いの土手など。日光に敏感で、日を浴びると、ラッパ状の花を開き、夕方にはまた閉じる。天気の悪い日は搾った筆先のようなつぼみのまま。目立たないため、人に踏まれてしまうこともあるという。佐藤さんは「踏まれても踏まれても生え続ける、強い花です」と教えてくれた。
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男性はレンズ越しの花の造形に夢中という
以前はアケボノツツジなどの大きな花を撮っていたが、関心は小さな花へ。「めしべ、おしべにがく片。花の中にすっごい造形の世界がある」。撮り終えると、次の花を求めて去った。
山中さんにならって花をのぞき込む。青紫の花弁は外から内に向かって清らかな白に変わり、紫の斑点がちりばめられている。青空と白い雲のような色合い。まるで天からこぼれ落ちた一滴の絵の具のようだった。(森本敦士)