2023.04.13 05:00
コロナ禍で物語の力信じる 村上春樹さん、小説の意義とは
新作「街とその不確かな壁」を刊行した村上春樹さん(新潮社提供)
村上春樹さんの新作「街とその不確かな壁」の執筆は、新型コロナウイルスが広がり始めた2020年3月に始まり、2年半ほどで完成した。村上さんは執筆がコロナ禍と重なったことについて「あとがき」で「何かは意味しているはずだ。そのことを肌身に実感している」と記している。
インタビューでは、執筆の中でコロナ禍の世界をどのように見ていたかを率直に語った。「歴史の流れが変わっていくんだなと感じた。ウクライナで戦争があり、ポピュリズムが出て、民族主義が起こって。世界が動いているとの思いは強い。不安というかね」
作中では「魂にとっての疫病」という言葉も登場する。「世界が不安定になってくると、狭い世界に逃げ込みたいという気持ちが出てくる。壁に囲まれた街のような、幻想的な世界に」。その良しあしは分からないと語るが、一方で「現実の外の世界との交流や行き来はすごく大きな意味を持っている」と言う。
対面での交流が減る中、交流サイト(SNS)の影響力も増した。その特徴を「短いセンテンスでどれだけ主張を通すか」だと指摘しつつ、小説の意義についてこう語った。「小説は長い時間性の中で何かを語る、何かを与える物語。何年か考えてやっと分かるということもある。僕はそういう物語の力を信じたい」