2023.04.13 08:00
小社会 ムツゴロウさん
父は旧満州(現中国東北部)に渡って医師になり、辺境の無医村に赴いて開業した。自著「ムツゴロウの青春記」によると、小学校に上がる前の年だった畑さんの記憶は「このあたりで突然始まっている」。
電気も水道もガスもない。友としたのは大自然。つかまえては飼った鳥のひなや獣の子が、「あの雄弁な愛くるしい瞳で見上げていた」。動物たちとの交流を深めた人生の原風景なのだろう。
なぜ、あれほどさするのか。晩年、分析した記事が本紙にあった。問題行動を示す動物は「愛されることを知らないから、相手に優しくする方法が分からない」。人と触れ合うことで幸せを感じる物質とされる「オキシトシン」が分泌されることが分かってきた、と。
畑さんは、人間同士の付き合い方の変化を心配している。パソコンやスマートフォンが普及して便利になった半面、人と触れ合う機会は減っている。握手だけでも。子どもの頭をなでるだけでも。「たくさん触れ合って、優しい気持ちを育ててほしい」
人の痛みを知らないような犯罪や動画の拡散が目立つ時代。訃報が伝わったムツゴロウさんのメッセージを考えてみる。