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2023.04.12 08:00

【他国軍支援制度】平和国家の信頼を損なう

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 戦後の国際社会で積み上げてきた「平和国家」への信頼を損なうことにならないか。日本の技術が人命を奪う事態にもつながりかねない。国の在り方に関わる問題だけに、国会で議論を尽くす必要がある。
 政府が、価値観を共有する「同志国」の軍を直接支援する新たな制度「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の創設を決めた。非軍事を原則とする政府開発援助(ODA)を柱とした開発協力の形が大きく変わることは避けられまい。
 昨年12月に閣議決定した国家安全保障戦略では「同志国軍への協力枠組み」新設を明記しており、その具体化となる。台湾への圧力を強め、東・南シナ海で海洋進出を加速する中国を念頭に、途上国の軍を直接支援して抑止力向上を図る。だが、基準の曖昧さは否めず、なし崩し的に軍事的な関与が拡大する懸念は膨らむ。
 政府は、対象となる「同志国」を民主化の定着、人権、経済状況などから、総合的に判断するとした。2023年度はフィリピンやマレーシアなど4カ国を予定する。ただ、中国と強い関係を持つ国もあり、政府の狙い通りの効果が得られるかは不透明だ。
 提供する資機材などは、衛星通信システムやドローン、警備艇などを想定。政府は、殺傷能力のある武器は除外し、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の範囲内だと強調する。現状では、この三原則こそ危うさをはらんでいると言わざるを得ない。
 政府・自民党に、殺傷能力のある武器を含め、三原則の運用指針緩和を目指す動きがあるからだ。ロシアに侵攻されたウクライナへの支援で防弾チョッキなどを送ったものの、米欧の武器供与に比べて見劣りするとして、自民党内で見直しの機運が高まった。
 三原則は安倍政権下の14年、武器や関連技術の原則禁輸を撤廃し、国際協力や日本の安全保障に資する場合に、相手国の適正な管理などを条件にして輸出を可能とした。防衛装備品の輸出拡大や防衛産業の強化を図る思惑だろう。今回のOSAも、無償援助で対象国の軍などと連携を深め、それを呼び水として輸出を拡大させる狙いが指摘される。
 与党は今月下旬にも、運用指針の見直しに向けた議論に着手する見通しだ。それを前にした現段階では、三原則は到底、際限ない武器輸出拡大への歯止めにはなるまい。
 さらに、殺傷能力のある武器はもちろん、供与した資機材が軍事転用されてしまえば、当事国には紛争に介入したとみなされかねない。そうなれば、長年にわたる非軍事目的の開発協力で築いてきた無形の財産、平和国家への信頼を失うことにもなろう。
 そもそも、岸田政権はOSA創設を国家安全保障会議(NSC)の9大臣による持ち回り会合で決めた。平和国家としての理念が問われる局面で、国民と国会を軽視する姿勢は極めて問題が大きい。

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