2023.04.04 08:00
【日中外相会談】対話でリスクの管理を
林芳正外相が訪中し、秦剛国務委員兼外相と会談。3月に就任した李強新首相とも、日本の閣僚として初めて面会した。日中平和友好条約締結45年の節目に、関係改善への糸口を見いだしたい。
日本の外相の訪中は、実に約3年3カ月ぶりとなる。新型コロナウイルスの流行などが対面による会談の障害となってきたことは確かだが、台湾情勢の緊迫化、中国の海洋進出など安全保障面で緊張が高まり、隣国関係が停滞してきたのは明らかだろう。
米中が覇権争いを繰り広げる中、緊張の緩和を図りながら、一方で建設的な関係に向けた道筋をつけなければならない難しい局面といえる。今回、日中韓3カ国での対話再開を申し合わせるなど、多層的な意思疎通の必要性を確認し合った意味は大きい。
ただ、個別の課題では両国の間にある溝が際立つ訪中となった。大手製薬現地法人の邦人幹部が拘束された問題では、早期の解放を強く求めた林外相に対して、秦外相の答えは「法に基づき処理する」と一般論の域を出なかった。
中国側は拘束の理由をスパイ活動に従事したと説明するが、どういった行為が反スパイ法や国家安全法に触れるかにははっきりしない部分がある。外務省によると、2014年以降17人が拘束されており、現地の日系企業にも「明日はわが身」と動揺が広がる。
習近平指導部は「ゼロコロナ」政策で冷え込んだ景気の回復へ、広く投資を呼び掛けているが、対応のちぐはぐさは否めない。まずは中国側の責任として、邦人を含めた外国人が安心して経済活動ができる環境を整える必要がある。
さらに、米中対立の大きな構図に関わってくる場面では、互いに相いれない部分が大きくなる。
中国側は台湾海峡問題で、絶対に譲れない「核心的利益」との原則論を展開。沖縄県尖閣諸島周辺では、会談当日も中国海警局の艦船による領海侵入が続いた。軍事転用の恐れから、米国が主導する先端半導体関連の輸出規制についても、日本が対中包囲網に加わらないよう強くけん制した。
しかし、経済を含めた安全保障問題では、日本にも「法の支配に基づく国際秩序の維持」を旗印とした先進7カ国(G7)の議長国として、譲れない一線がある。
ロシアによるウクライナ侵攻や台湾海峡問題などがテーマとなる5月のG7首脳会談(広島サミット)に向けて、G7側の発信で両国の間に波風が立つ場面も想定されよう。それゆえに、対話を通じて行き違いのリスクを適切に管理する視点が欠かせない。