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2023.03.31 08:00

【露の戦術核拡大】愚かな歴史を繰り返すな

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 ロシアのプーチン大統領が、同盟国ベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を示した。侵攻するウクライナに兵器や弾薬を支援する米欧をけん制する狙いとみられる。
 むやみに軍事的な緊張をあおるばかりでなく、ロシアとベラルーシも加盟する核拡散防止条約(NPT)の趣旨、核軍縮の流れに反する愚かな行為というほかない。即刻、方針を撤回するべきだ。
 冷戦時代の欧州では、米国とソ連が同盟国を巻き込んで激しく対立。ソ連が1991年に崩壊した後、独立したベラルーシとウクライナ、カザフスタンに残された旧ソ連の核兵器を、ロシアが90年代半ばまでに引き取った。
 ベラルーシに核兵器が再配備されればそれ以来となる。約30年に及んだ核軍縮の流れを否定するに等しい。プーチン氏は、「核による対峙(たいじ)」の緊張に包まれていた冷戦時代へ、時計の針を巻き戻すつもりなのだろうか。
 同国のルカシェンコ大統領とはすでに戦術核の配備で合意し、7月には保管施設が完成。核兵器が搭載できる空軍機や弾道ミサイルシステムの準備も進んでいるという。
 その理由からして首をかしげざるを得ない。英国がウクライナへの供与を表明した劣化ウラン弾の脅威を訴え、その対抗策として隣国への戦術核配備を打ち出した。だが、核兵器とは放射能の影響を含め、兵器として脅威のレベルが全く異なる。合理性を欠いていよう。
 軍事的効果にも疑問符が付く。ロシアの飛び地、カリーニングラード州には核兵器が使用できる弾道ミサイルシステムが配備されており、新たにベラルーシに展開しても有効性は低いとされる。やはり、狙いはウクライナを支援する米欧への脅し、揺さぶりにあるのだろう。思うに任せないウクライナでの戦況に焦りがあるのかもしれない。
 しかし、核軍縮の流れに逆行する形で核兵器を持ち出した影響はあまりに大きい。戦術核は局地戦での使用を想定した兵器だ。抑止を目的とした相手国を標的とする戦略核以上に、偶発的なリスクも膨らむのではないか。
 欧州連合(EU)は、戦術核が実際に配備されれば、ベラルーシに対して新たな制裁を科す可能性を警告している。北大西洋条約機構(NATO)も対抗措置を取らざるを得ないだろう。緊張がさらにエスカレートすることで、自国も核の脅威と向き合わなければならなくなる。
 ロシアはウクライナ侵攻を前にした昨年1月、ほかの核保有国とともに、核戦争の回避を「最大の責務」とする共同声明を出した。そこで引用したのが、冷戦末期に核軍縮に向けた交渉を繰り返したレーガン米大統領とゴルバチョフソ連書記長の「核戦争に勝者はない」という言葉だった。
 ロシア、ベラルーシの両国にはまだ、核戦力配備を思いとどまる時間がある。愚かな歴史を繰り返してはならない。

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