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2023.03.28 08:00

【実習生逆転無罪】制度の抜本的見直し急げ

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 死産した双子の遺体を遺棄した罪で起訴された元技能実習生のベトナム人女性が、最高裁で逆転無罪となった。むろん判決は実習生という立場とは関わりなく、個別の事情を検討した結果だ。
 ただし、実習生ゆえの厳しい環境が背景にあったことは間違いあるまい。外国人技能実習制度ではこれまでも人権侵害や法令違反が頻発しており、国内外に根強い批判がある。政府も制度見直しの議論を進めているが、抜本的な対策を急ぐ必要がある。
 熊本県内の農園で働いていた実習生は、自宅で双子を死産。段ボール箱に入れて棚の上に放置したとして死体遺棄罪に問われた。「妊娠を明かせば帰国させられる」と考えて誰にも相談できず、孤立出産に追い込まれたという。
 死体遺棄罪は、一般的な宗教的感情を害する形で遺体を放置したり、隠したりした場合に成立するとされる。最高裁は死産後の具体的な行為を検討した上で、「習俗上の埋葬などと相いれない行為とは認められない」と判断。一、二審の有罪判決を破棄した。
 ただ、実習生の孤独に陥る過程がひっかかる。妊娠や出産を理由とした不当な取り扱いは男女雇用機会均等法で禁じられているからだ。それにもかかわらず、実習生は強制帰国におびえていた。
 出入国在留管理庁が昨年末にまとめたアンケートによると、実習生の26・5%が仲介する監理団体や母国の送り出し機関などから「妊娠したら帰国」と説明されたという。実際に2017年11月から20年12月の間に、妊娠や出産で実習を中断した637人のうち、実習を再開したのはわずか11人だった。人権を軽視した制度の実態が浮かび上がる。
 技能実習制度は技術の移転による国際協力という建前とは裏腹に、実質的に安い労働力の確保策となっている。過去にも研修先での暴力や違法残業、賃金の不払いなど数々の問題が表面化した。
 もちろん制度の目的通り、キャリアアップを実現させたり、実習後も交流し続けたりする事業所も多い。一方でこれだけ不祥事が相次ぐ現状は、制度そのものが問題を抱えていることを示している。
 こうした実習先の環境に加え、多額の仲介手数料や原則転職できない仕組みのため、国際社会からも「強制労働」などと批判されてきた。17年には、制度運用を監督する「外国人技能実習機構」が発足。監理団体や実習先を実地検査する仕組みもできたが、十分に機能しているとは言いがたい。
 政府もようやく重い腰を上げ、抜本的な制度見直しに向けた議論を始めたが、人権に関わる問題だけに対処が急がれる。
 国内では少子化の進展で人手不足感が強まり、既に外国人労働者は欠かせない存在だ。「選ばれる労働市場」となるよう、賃金などの労働条件に加え、人権や自由を尊重した見直しが求められる。

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