2023.03.16 08:30
「その後の牧野日本植物図鑑」シン・マキノ伝【６１】＝第５部＝ 田中純子（牧野記念庭園学芸員）
「牧野日本植物図鑑」は無事にというよりは紆余（うよ）曲折を経て昭和１５（１９４０）年秋に刊行となったが、その奥付の前ページに「警告」と題して、牧野の本書に載る図を許可なく勝手に使用することを許さない、従来無断で牧野の図を自分の著書に濫用（らんよう）する者がいて、その著が流布しているが、今後本書の図について不正行為があったならば容赦なくその名を公表し、しかるべき措置を取ることを予告し置くという文が牧野富太郎の名で記される。断固とした厳しい口調である。前回述べたように本図鑑の編さんが、牧野の図を許可なく使用したという指摘が一つのきっかけになって始まったのであるから、牧野にとってはこの警告を載せるのは当然のことになろう。また、ここに至ってようやくすべて自分の書いた解説と描いた図、あるいは自分が監修した解説と指導して描かせた図からなる植物図鑑が完成したことになり、他の著書に由来するものはなくなったわけである。題名に「牧野」という自分の姓を冠する意味もここにあろう。
同図鑑は、その後版を重ねて太平洋戦争で一時中断するが、戦後になっても続き昭和２４年１１月には改訂版（第7版）を刊行するにいたった。ここで初めて修正が加えられたのである。同版の「巻頭の一言」の終わりに、牧野はかなり激しい口調で…
