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2023.03.12 05:00

【福島事故12年】原発回帰は許されるのか

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 日本は東日本大震災をきっかけに原子力発電に絶対的な安全などないことを知った。東京電力福島第1原発で過酷事故が発生。地元では多くの人が住み慣れた地を失った。
 原子力はやはり恐ろしい。事故を起こせば、取り返しがつかない―。政府もそう痛感したからこそ、事故後は脱原発や原発依存度の低減を掲げてきた。
 事故後には、政府や東電が巨大津波襲来の危険性を以前から把握しつつ、十分な対策を講じていなかったことも判明した。関係機関や原子力政策の信頼は失墜した。
 ところが、見直したはずの政策を岸田文雄首相が再び転換。原子力を「最大限活用」する方針を打ち出した。背景には石油の高騰や脱炭素化もあるが、だからといって安易な原子力回帰が許されるのか。
 被災地はいまも厳しい状況に置かれている。
 事故を起こした福島第1原発は、原子炉から溶け落ちた燃料デブリがいまも手つかずである。放射線量が強いため、どれほどのデブリがどんな状態で存在するのかもつかみ切れていない。廃炉への道は長い。
 燃料デブリは冷却水や地下水に触れ、汚染水を生み出している。東電はこれをくみ上げ、ろ過装置で放射性物質を取り除いているが、トリチウムは除去できない。
 そこでトリチウムを含む水を「処理水」として原発構内に保管し続けているが、それも限界だとして政府は「今年春から夏ごろ」に海洋放出を始める方針を決めた。さらなる風評被害を懸念する漁業者の理解は得られておらず、反発が相次いでいるのは当然だ。
 被災地では帰還困難区域の指定が徐々に解除され、再開発も進んでいる。ただ、実際に帰還できた人はわずかである。避難が長くなり、仕事やすまいなどの生活基盤も避難先で出来上がっている。
 こうした現状から、原発事故の被害はいまなお拡大していると言ってもいいだろう。二度目の事故はあってはならない。
 岸田政権は原発事故後に導入した原発の運転期間「原則40年、最長60年」を見直し、60年超を可能にする法改正案を今国会に提出した。古い原発をこの先も使い続けることを意味するが、国民の理解が進んでいるとは言いがたい。
 一方で、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を目指す東電は同原発を巡って不祥事が相次いでいる。原発事業者としての信頼を回復するどころか、ますます適性を疑われる事態になっている。
 そもそもこの国の原発政策を巡っては、発電所から出る「核のごみ」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物の最終処分場もない状況だ。無責任状態が続いている。
 多くの疑問が募る中での原発回帰である。事故から12年。私たちは改めて事故や被災地の状況、原子力政策を見つめ直し、原子力を考える必要がある。子や孫の安全にも関わる問題だ。国民的論議が欠かせない。

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