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2023.03.09 08:00

【放送法文書】政治の圧力を検証せよ

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 自らに異論を唱える放送は一切認めないという姿勢では、健全な民主主義は育たない。政治の圧力の影響を検証して説明が求められる。
 放送法が定める「政治的公平」の解釈を巡り、総務省は内部文書とされる資料が公式な「行政文書」であると認めた。立憲民主党議員が、同省職員から受け取ったとして公表していた。
 文書は安倍政権下の2014~15年に作成されたとみられる。官邸が政権に批判的な番組へのけん制を狙い、放送法を所管する総務省と協議を重ねた経緯が記されている。
 放送法は、戦時中にラジオが政府宣伝に使われた反省から制定された。政府は政治的公平に関し、「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」との立場をとってきた。
 文書では、この解釈を再検討する議論を当時の礒崎陽輔首相補佐官が主導する。当時の安倍晋三首相や、総務相だった高市早苗経済安全保障担当相も登場する。高市氏は15年5月に国会で「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁している。その後も電波停止を命じる可能性に言及して議論になった。
 こうした過程では、総務省出身者から放送法の根幹に関わり、メディアが萎縮するなどと懸念する意見も出ている。総務省は16年に、従来の解釈に変更はないとする政府統一見解を公表している。高市氏の答弁は、解釈を補充的に説明したと位置付けた。解釈変更はされなかった形だが、政権の対応など一連の流れを明確にする必要がある。
 一方、公開された文書は、一部に「取扱厳重注意」の記載がある。こうした文書を公開するのは極めて異例だ。そもそも、松本剛明総務相は慎重姿勢だった。
 公開へ転じたのは、予算案審議への影響や時間の経過などが挙げられる。立民側が公表した文書と同一内容だった。財務省の決裁文書改ざんと重ねられることを回避したかったのかもしれない。あるいは、内容の正確性は一部留保したことで、追及に対応しきれると判断したとも考えられる。
 高市氏は、文書の自身の発言とされる記載は捏造(ねつぞう)だと主張する。自身に関する4枚の文書は作成者が書かれていないなど、正しい情報ではないと強調する。
 だが、行政文書は公文書の一種だ。総務省の作成した文書に、当時の総務相が疑義を向けるようでは公文書の位置づけが揺らぐ。内容が完全に正確ではないにしても、捏造とまで言い切るのは尋常ではない。立証を議員側に求めるのではなく、自らが説明を尽くすことが必要だ。
 岸田文雄首相は、総務省が適切に説明することが重要だと述べている。そうした発言を補強する指導力を発揮することが必要だ。松本氏は、内容の精査を続ける考えを示す。その結果を公表することが、放送法を考える一助にもなる。曖昧にしてはならない。

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