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2023.03.07 08:40

【配達員、出馬する】会社が許さないのでは…―なり手になって 令和の新人議員たち(1) 2023高知 統一選

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山間部を郵便バイクで回る川久保可不可さん (香美市物部町)

山間部を郵便バイクで回る川久保可不可さん (香美市物部町)

 午前10時、杉林を縫って赤いバイクがひた走る。視界が開け、薄く霧がかかった谷間を見下ろす道の脇に民家が1軒。荷台から封筒を取り出し、郵便受けにすとん。

 「転勤当初はこんな山奥にも家が…と驚きました」

 徳島との県境、香美市物部町で郵便局員を務める川久保可不可(かふか)さん(52)。隣の市に住まう川久保さんにはもう一つの肩書がある。

 香南市議会議員―。昨年4月にバッジを着けたばかりの兼業議員は「国道を走るだけでは見えん暮らしがあるがよ」と話す。

 谷を下りて次の家へ。走行距離は長い日で100キロを超える。バイクで上れない細道を20分かけて歩く配達先もある。「買い物や通院で苦労する、山のお年寄りの暮らしを良くしたい」。初めての選挙でそう訴えた。

 ◇ 

 県内の市町村議は426人(定員432)。うち6割ほどを65歳以上が占める。専業以外の議員の大半は、自営業や農業、親族らが営む会社の役員。川久保さんのような「サラリーマン議員」は少ない。

 香南市野市町で生まれ育った。名前は「できること、できないことがある」の意で父が名付けた。

 「できることをやれ、の意味だと思う」と川久保さん。18歳で民営化前の日本郵便に入った。

 上司にも物申すタイプ。40代は松山市の支社で労働組合の専従役員を6年務めたが、組合と考えが合わなくなって辞めた。異動を希望し、4年前から大栃郵便局で働き始めた。

 2021年夏、組合時代から選挙を手伝ってきた市議から、後継者探しを頼まれた。数カ月かけて複数に打診したが難航。ある日、市議から切り出された。

 「どうにか、あんたがやってほしい」

 自分にお鉢が回ってきて、迷った。子育て中だし、仕事は辞められない。配達を通して山の暮らしを知り、政治に言いたいことはある。働きながら両立できれば…。一度は断り、悩んだ挙げ句、決めた。

 ◇ 

 職場で出馬する意思を告げると、上司や同僚は一様に驚き、案じた。

 「そもそも会社が許さないのでは…」

 公文義和局長(58)には別の心配も大きかった。社員10人の郵便局で、川久保さんは現場のまとめ役。「挑戦の意思は応援してあげたい」。が、議会で休む間の人手はどうするか。

 報告は早速、日本郵便の四国支社に上がった。兼業に関する内規に基づき検討した結果、許可されるとの回答だった。

 議員活動の日は無給の休職扱いとし、「勤務と厳格に線引きするように」とくぎを刺された。社として政治活動を応援していると見られては困る―。そんな組織の姿勢も感じさせた。

 自分の旗を明確にしたいと、引退議員と同じ立憲民主党から出ることにしていた。しかし、同僚も支持する政党や考え方はそれぞれ異なる。特定の政党から出ることは、職場に戸惑いを生むのではないか。

 川久保さんは仕事終わりに同僚の前で頭を下げた。

 「議員になったら支持者以外の声も尊重する。応援してほしいとは言わないけど、出馬したいという僕の思いも、どうか尊重してくれませんか?」

 □■ 

 地方議員のなり手不足が問題化する中、4年に1度の統一地方選が迫った。さまざまな背景を持つ県内の新人議員4人に密着し、それぞれの今を追った。(報道部・福田一昂)

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