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2023.02.28 08:40

「怪異の掃除人」著者の長埜恵さん(高知県出身)ネット小説大賞からデビュー! 作品に込めた“好き”の力とは

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高知県出身の作家、長埜恵さんが出版した「怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル 生ける炎は誰が身を喰らうか」。後ろにちょこっと写っているのは高知城です

高知県出身の作家、長埜恵さんが出版した「怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル 生ける炎は誰が身を喰らうか」。後ろにちょこっと写っているのは高知城です


 高知県出身の作家、長埜恵さんがこのほど「第10回ネット小説大賞」で入賞し、デビュー作「怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル 生ける炎は誰が身を喰らうか」を宝島社から出版しました。街の怪奇現象に「怪異の掃除人」と仲間たちが立ち向かい、互いの絆を深めていく物語です。「本を出す」という夢をかなえた長埜さんにこれまでの歩みを語ってもらいました。

■書くことが「ずっとそばに」

――受賞おめでとうございます! 投稿サイト「小説家になろう」で書いた作品が出版社に評価され、見事デビューが決まりました。いつから小説家に「なろう」と思っていたんですか?

長埜さん(以下、長埜):いつからだろう。書くこと自体はずっと、自然にそばにあったんですよ。小学校の低学年くらいから、気の向くままにいろんな物語を自由帳に書いて、きょうだいや友達に見せてました。

中高生の時は個人サイトが流行してた時代だったので、私も個人サイトを作って作品をアップするようになって。ジャンルはいろいろです。ファンタジーやラブコメもあれば、エッセーもあり。その日の気分で書いていました。

――子供の時からずっと「書く人」だったんですね。

長埜さんは高知県の出身。高知市内の高校を卒業しました

長埜さんは高知県の出身。高知市内の高校を卒業しました


――「小説家になろう」に登録して書き始めたのは2019年で、意外と最近です。

長埜:社会人になってからは、あまり作品を他人に見せていなかったんですよ。一人で書いて、こっそりしまっておいて、後で読み返して…。完全に一人で回してました。私だけが楽しく書いて、楽しく読んで(笑)

「小説家になろう」っていうサイトがあると知って、試しに作品を出してみたら、サイト自体が大きいから個人サイトで書いてた時代とPV(ページビュー)の規模が何十倍も違ってた。「こんなに読まれるなんて!」とテンションが上がりました

文庫本は366ページ。24万字あった投稿作品を約10万字分減らして1冊に収めたそうです

文庫本は366ページ。24万字あった投稿作品を約10万字分減らして1冊に収めたそうです


――今回出版した「怪異の掃除人」シリーズも同年に始まりました。怪異の設定はかなり怖いですよね。街中に切断された指が無数に落ちていたり、誰かの夢に入り込んで人体を食べる化け物が出てきたり。

Case.1の扉絵。切断された小指が出てくる不気味なエピソードです

Case.1の扉絵。切断された小指が出てくる不気味なエピソードです


長埜:
もともとホラー作品が好きで、「クトゥルフ神話」(20世紀前半の米国の作家、H・P・ラブクラフトと周りの作家たちが切り開いた独自の世界観)も大好きなんです。その世界観をモチーフに私も作品を書いてみたい、という気持ちから始まったのが「怪異の掃除人」シリーズです。

■毎日2千~3千字の投稿

――「怪異の掃除人」には、すぐにファンが付きましたか?

長埜:いや、全然です! 最初は全く読まれなくって。

「小説家になろう」には「異世界転生」「悪役令嬢」「ざまあ」といった流行があるんですよ。流行筋のジャンルは読みたい人がたくさんいて、PVも上がりやすいんです。でも「怪異の掃除人」はホラー、さらに舞台が現代、そしてブロマンス。とてもニッチでした。

でも毎日懲りずに投稿を続けてたら、ちょこちょこ感想が返ってきだして。ありがたいことに「すっごい面白いよ!」と言ってくれる人も現れまして。そこからちょっとずつ伸びていきましたね。

――えっ。「毎日」投稿されていた?

長埜:毎日書いてましたね~。なぜか「出さなきゃ!」「書かなきゃ!」って気持ちになってて。毎日2千~3千字書いて、ばかすか投稿してました

――新聞記者でも「毎日3千字」書く人はあまりいません。なかなかの執筆速度ですが、どんな環境で書いていますか?

長埜:投稿作品の執筆はスマホの文書作成アプリです。いろんな用事の片手間に書けて便利ですから。隙間時間を利用して、いろんな場所でぽちぽちと書いてます。

空き時間にスマホで執筆しているという長埜さん

空き時間にスマホで執筆しているという長埜さん


■「好き」を詰め込んだ世界


――物語を構成するいろんな要素にも、細部までこだわりが詰まっているように見えました。キャラクターはどんな発想から生まれましたか?

長埜:キャラクターはですね。もう古今東西、昔っから皆さんこういうの好きじゃないですか。

メインキャラの紹介(イラスト:斎賀時人)

メインキャラの紹介(イラスト:斎賀時人)


長埜:つまりホームズとワトソンの関係ですよ。生活能力のない天才肌と、おせっかい焼きの常人ポジション「みんな好きでしょ?私も好きー」って。

――確かに。メインキャラクターの「曾根崎」がホームズ役、「景清」はワトソン役ですね。彼らは恋愛関係とは違うものの「互いが特別」という関係ですね。

長埜:そうなんです。映画とか小説では、よく相棒同士が衝突したりしますよね。定番の流れなのは分かるんだけど、個人的にはストレスな部分もありまして。だからお決まりの「仲たがい」がない話にしたいなって思いました。一瞬離れても爆速で元に戻る、みたいな。

最初っから仲がいい2人が、さらにどんどん関係を深化させていく物語を書いてみたかったんですよ。そこも多分、好意的に受け止められたのかなと思っています。

――そうですね、曽根崎と景清は作中ずっと親しく、支え合っています。あとは、テンポの良い会話も特徴ですね。要所にちりばめられたコメディー要素が印象的でした。

長埜:あはは(笑)実は元落研なんですよ。大学時代に落語研究会で荒波にもまれまして。そこで会話のリズムの感覚を身につけたのかなと。漫才のネタとかも書いたりしてたので。ノリで。

ネット小説大賞入賞の一報は「何かの間違いじゃないかと思った」ほど驚いたという長埜さん

ネット小説大賞入賞の一報は「何かの間違いじゃないかと思った」ほど驚いたという長埜さん


――いろんな活動が作品に生きているんですね!

■「大丈夫だよ」を描きたかった

――コメディータッチの一方で、親と子の確執カルト教団との関わりなど、社会問題を切り取ったような描写もあります。

長埜:物語の装置として登場させました。私自身の経験ではないし、「一石を投じたい」みたいな思いで書いたわけでもなくて。

ただ、事実として世の中にはいろんな背景を持った人が暮らしていますよね。性的マイノリティーに属していたり、自分の価値観が社会と相いれなかったり、毒親(過干渉や過保護などで問題がある親)と呼ばれるような人に育てられていたり。

さまざまな思いを込めた著作を手に持つ長埜さん

さまざまな思いを込めた著作を手に持つ長埜さん


長埜:
感覚の話になりますが、ちょっと前までは、そういう背景について本人が思いにふたをして生きてたところがある気がするんですよ。「そういうもんだから」「しょうがじゃないじゃん」「だって世の中がそうなんだから」って。そんな空気だったような。

今は情報が増えた分、一人一人が考えたり気づいたりすることが多くって。「自分の生きづらさは子供時代に理由があるかも」「もしかしたら私は異性じゃなくて同性が好きなのかな」「別に結婚しなくたっていいじゃん、私は一人が好きだよ」とか。みんなが気づいて、いろんな価値観が少しずつ認められて、社会が寛容になってきている。

――そう感じている人も多いと思います。

長埜:ですよね。だからテーマがあるとしたら「そういう背景があっても大丈夫だよ」「ちゃんと自分の足で歩いて行ければあなたの居場所が見つかるよ」という部分ですね。そのメッセージは、ずっと表現したいと思っていました。
 
作中では「景清」を中心に、それぞれの人物が背景を持っています。読んだ人が「自分のままで大丈夫」と感じられるといいなと思います。きっと、しんどい人や、動きだせない人も、いっぱいいると思うので。

――勇気づけられるメッセージですね。

■ずっと書き続けていきたい

――今後の展望を教えてください。

長埜:個人的な「好き」を貫いた作品なのに、幸いにもすごくいろんな方に読まれて、応援もしていただき、本当にありがたいと思っています。

今回はチャンスに恵まれましたが、一般的に2冊目を出すことは難しいんです。できたら続編も出せたらいいな~。怪異の掃除人シリーズは、インターネットの方で続きを書いているんです。無事に完結させたいですね。

別の作品にも挑戦したいです。ミステリーものをちゃんと書きたいし、SFも書いてみたい

本になるかどうかは関係なく、「書き続ける」ということは、ずっとしていきたいですね



長埜さんに、宣伝イラストを描き下ろしていただきました

長埜さんに、宣伝イラストを描き下ろしていただきました


(構成=メディア企画部・竹内悠理菜)

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