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2023.02.27 08:00

【23区の大学定員】規制緩和はちぐはぐだ

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 東京一極集中の是正は日本が直面している大きな課題だ。その取り組みと方向感が逆行する。ちぐはぐだと言われても仕方あるまい。
 政府が、東京23区の大学を対象に行っている定員規制を一部緩和する方針を示した。デジタル分野の人材育成に限り、2024年度にも定員増を認める。
 大学の定員規制は、地方創生の一環で18年に始まった。地方の若者が首都圏に流出するのを防ぐ目的で、27年度まで10年間は定員増を認めない法律が制定された。
 政府は規制緩和の理由に、デジタル人材の不足を挙げる。岸田政権は情報基盤の整備を通じて地方での生活の利便性を高める「デジタル田園都市国家構想」を掲げており、その推進にも支障が出るとする。
 人材育成が急務なのは間違いあるまい。本県にもIT系、コンテンツ系の県外企業の進出が相次ぐが、いずれも人材の確保が目的だ。地方で採用して自社で育成する例もあり、その深刻さがうかがえる。
 だが、都市部への若者流出に地方は苦しんでいる。それに拍車を掛ける恐れがある大学定員増を、すんなりと受け入れられるだろうか。地方側の首長や大学の関係者から懸念の声が出るのは当然だ。
 規制を始めてから5年たつ。これまで一極集中是正にどれだけ効果があり、緩和するとどうなるのか。また、なぜ人材の育成拠点が東京でなければいけないのか。地方側を納得させるには、少なくともそのような説明が必要だ。
 地方の大学でもデジタル系の教育課程やカリキュラムを充実させる新しい動きが相次いでいる。本県でも、高知工科大学のデジタル系新学群開設の準備が進んでいる。
 それらとも連動しながら、育成拠点を地方に分散して強化すれば、人口一極集中の是正にも資する取り組みになる。にもかかわらず23区に目を向けたのは、育成のペースや効率を考えたからだろう。だとすれば、一極集中是正に向けた本気度を疑ってしまう。
 地方創生、一極集中是正のこれまでの取り組みは十分な成果を出してきたとは言い難い。ただ、「密」な環境が敬遠された新型コロナウイルス禍もあって、東京の転入超過数は19年の約8万3千人から21年は約5400人にまで減るなど、地方への人の流れができつつあった。
 しかし22年は、行動制限の緩和で活動が活発化して約3万8千人に増えた。再び一極集中の傾向が強まっていることを、政府は念頭に置くべきだ。
 他方、人手不足に苦しむ業界や、規制に反対してきた東京の大学側は今回の定員増を「当然」「妥当」などと歓迎しており、デジタル分野以外の規制撤廃を求める声が高まるとの見方もある。
 それらに対応するためには、地方側の努力も欠かせない。政府の定員規制に甘えることなく、地元の大学を選んでもらえるような魅力づくりを続けていく必要がある。

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