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2023.02.24 05:00

【侵攻と日本】針路の説明と議論重ねて

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 国際法に背いて力による現状変更を狙うロシアのウクライナ侵攻は、世界に混乱を拡大させている。諸課題が顕在化して分断は深まる様相だ。決定的な対立は回避しなければならない。新たな秩序の構築が求められ、日本もその役割を担う。
 先進7カ国(G7)をはじめとする国際社会は、金融取引の制限などを打ち出してロシアへの制裁を強めてきた。基幹産業である原油や天然ガスの輸出も制限された。
 戦費調達の制約が目的だが、中国やインドが買い支えて十分な効果は出ていないようだ。また、他国を含めほかの物資の貿易量も増加し、ロシア経済はマイナス成長ながら持ちこたえている。制裁を骨抜きにする構造を変える必要がある。
 ロシアがクリミア半島を一方的に編入した際、日本は欧米と制裁への足並みはそろえたが、踏み込むことは避けた。北方領土交渉を抱えるためだ。今回の侵攻では姿勢を転じ、北方四島を再び「不法占拠」と位置付けた。ロシアは平和条約締結交渉の中断を打ち出して対抗する。関係の再構築は不透明な状況だ。
 一方、新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開に伴い上昇基調だったエネルギーや穀物相場は侵攻で高騰し、物流の停滞が拍車をかけた。世界的にガソリン価格や電気料金の上昇で生活の負担感が高まり、食料危機の懸念が強まった。
 インフレが進む米欧は金融引き締めに動く。日本は金融緩和を続けたことで、金利差から急激に円安が進んだことも日本の物価を押し上げた。生活への影響は大きく、賃上げへの関心が例年以上に強まっている。企業物価も大幅に上昇し、価格転嫁できない企業を苦しめる。
 経済活動には資源や製造品の安定確保が欠かせない。このため米中対立からも意識されてきた経済安全保障の確立への動きが強まった。
 だが、経済の結び付きは単純ではない。供給網の再編や利害対立の調整は困難が伴う。ブロック化は分断を招き、経済活動を停滞させかねない。丁寧な対応が必要だ。
 また、エネルギー問題は脱炭素の動きにブレーキをかけ、原発の位置付けにも影響を与えている。温暖化は各国に責任ある行動を迫っていることを忘れてはならない。
 ロシアの侵攻は、覇権主義的な行動を強める中国や、核開発やミサイル発射を重ねる北朝鮮の動向を強く意識させ、日本の防衛の在り方への関心を高めた。政府は防衛費の増額や反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を打ち出した。
 専守防衛の安保政策は大転換を迎える。だが、防衛力の整備は目指すべき方向性よりも予算規模が先行する状況だ。財源も判然とせず、軍拡競争に陥る危惧も募る。
 岸田文雄首相は専守防衛は変わらず、日米同盟の基本的な役割分担は変わらないとする。しかし、説明不足で理解は進んでいない。
 侵攻がもたらした混乱と転換は今後の日本の針路に関わる。だからこそ丁寧かつ冷静な議論を求める。

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