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2023.02.18 08:35

「最高の60発」目指して ライフル射撃・阿部花論(土佐女高) 全日本選手権女子ビームピストル60発優勝―高新スポーツ賞の顔(7)

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愛銃のエアピストルを手に“二丁拳銃”姿でにっこり。「メンタルが豆腐なので、試合中はストレス性の腹痛とも戦っている」そうだ(高知市の春野射撃場=森本敦士撮影)

愛銃のエアピストルを手に“二丁拳銃”姿でにっこり。「メンタルが豆腐なので、試合中はストレス性の腹痛とも戦っている」そうだ(高知市の春野射撃場=森本敦士撮影)

 銃の重さは約1キロ。10メートル先にある直径約15センチの的に照準を合わせ、75分以内に60発を撃つ。「最高の一発」は、構えを維持する体力と集中力、そして精神力の三拍子がそろって初めて生まれる。

 高校2年の阿部花論は、ユース年代の日本代表にも名を連ねる国内女子トップの一人。レーザー光線を放つビームピストル(BP)と、圧縮空気で弾丸を撃ち出すエアピストル(AP)のスペシャリストだ。

 全国高校選抜女子BP2位、栃木国体少年女子BP2位、東アジアユース男女混合AP3位…。2022年の実績も輝かしいが、実は「『ぼろ負けしたらどうしよう』って、そればかり。銃を見るのもしんどかった」。朗らかな笑顔からは想像できない、恐怖と戦った一年だった。

 ◇    ◇ 

 警察官の父親、孝さんは国体5度入賞のピストル選手で、県協会コーチ。土佐女中入学時はテニスや吹奏楽に興味もあったが、「身近なのに未知のものだった射撃への好奇心が勝って」1年の夏から競技を始めた。

 右手で銃を構えた姿勢を1分間保ち、これを40回繰り返す毎日の基本練習。箸も持てなくなるほどきつかったが、専用の的まで購入してくれた孝さんの情熱に、「後に引けんなってしまった」。

 元々、負けず嫌いな性格。「相手じゃなく、自分にだけは負けたくない」と歯を食いしばった。積み重ねた努力はうそをつかない。19年春の全日本ジュニアBP大会で女子2位。高校生を抑えた中学2年生の名前は一躍、全国にとどろいた。

 翌年1月には、強化合宿で訪れたシンガポールでの交流試合で574点をマーク。「どこに撃っても当たった」最高の射撃で、ジュニアの日本記録を上回るハイスコアをたたき出した。

 しかし、この頃から自身の思いと周囲の期待のギャップに苦しむようになった。「努力を重ねても、うまくいく時も駄目な時もあるのに、周りは『上位に行って当たり前』。勝たないと意味がないのか。『もう無理!』ってなってしまって…」

 体も悲鳴を上げたのだろうか。やがて、右手首の炎症を発症。中学3年の秋には手術もしたが、今も指や関節が固まってしまう症状と向き合う。

 高校1年時には「人に会うのが怖くなって」、夏場に2カ月ほど銃を置いた。支えてくれたのは競技を通じてできた友人であり、ライバルの存在。励まし合い、競い合う中で、徐々に心身の健康を取り戻したという。

 自身初の全国タイトルをつかんだ7月の全日本選手権女子BP。本戦は自身としては「ぼろぼろ」の555点だったが、仲の良い一つ年上の西田葵(JOCエリートアカデミー)と競り合ったファイナルは、「久々にワクワクを味わえた試合でした」。ともに高め合える仲間こそ、何にも代えがたい宝物だ。

 ◇    ◇ 

 恐怖、葛藤、体調…。多くの試練と戦った一年を経て、競技との向き合い方は変わったのだろうか。「『楽しかった』『良かった』と思える瞬間を追い求めてる感じ」と分析しつつ、「やめるつもりはないですよ」。

 楽しい瞬間は、「最高の一発」が決まった時。「大会の大小は関係ない。60発丸々、それを体験してみたいじゃないですか」。未知の「最高」を求めて、まだまだ挑戦を続ける。(横田宰成)

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