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2023.02.18 05:00

【中国の偵察気球】対処と影響を冷静に探れ

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 新たな課題への対処方針を探るのは当然だが、急ぐあまり検討が不十分では別の緊張を生じさせかねない。情報を分析して、どう臨むのか慎重に議論を深める必要がある。
 政府は領空侵犯した気球や無人機を撃墜できるよう武器使用要件の緩和案を示し、与党が承認した。中国の偵察用気球とみられる物体が日本上空を飛行していた事態を受けた。
 日本では2019~21年に九州と東北で3回、飛行物体が目撃されている。政府は当時、安全保障に影響はないとの認識を示していた。今回の米国による中国偵察気球撃墜に伴い姿勢を一変させた。
 米軍は偵察気球の残骸から情報収集活動に使われる重要なセンサーなどを回収した。防衛省は、従来と違う対応を検討する段階に来ていると判断したという。
 自衛隊法は、領空侵犯した外国航空機に着陸や退去を促すため「必要な措置」を講じると規定する。警察権行使に準じ、武器使用は正当防衛や緊急避難に限り認めるが、これまでに警告射撃が1件あるだけで、撃墜例はない。
 武器使用は厳格運用が基本だ。戦闘機など有人の航空機への対処は想定しても、気球や無人機は想定していなかった。このため政府は空路を飛行する航空機の安全確保や地上の国民の生命や財産の保護を理由に使用要件を見直し、米側に追随する構えだ。法的整合性や責任の所在などをまず明確にすることが重要だ。
 撃墜を巡っては技術的な困難や破片が地上へ飛散する危険性が指摘される。そもそも、その飛行目的を把握することが簡単ではない。中国は偵察用気球とした日本の推定に反発している。無人機でも撃墜すれば外交問題に発展することは必至だ。
 米国とカナダの上空では、1件目の撃ち落とし後も所属不明の飛行物体が計三つ確認され、撃墜した。これらは商用や研究用で無害だった可能性も指摘されている。
 一方、気球はレーダーに捕捉されにくい高度を飛行し、より鮮明な画像が得られ、製造コストも安いとされる。安全保障分野が宇宙やサイバーに広がる中、気球の能力に着目した研究や活動も強まっている。
 中国軍内では宇宙やサイバー戦を担当する部隊が管轄し、運用に関わっているとの分析がある。軍は米本土侵入を自国の外務省に連絡していなかったとの見方があり、その後の対立を強めた一因と言えそうだ。
 米中は関係安定化を探っていたが、ブリンケン国務長官の訪中を延期するなど波紋が広がっている。中国も米国の高高度気球が中国領空を飛行したと主張するなど、両国の不信感が増幅している。
 米共和党は本土飛来を許したとして、バイデン政権への弱腰批判を強める。政権は国内向けにも強硬姿勢を示さざるを得ない状況だ。
 米中対立は日本にも影響する。関係の改善を促す必要があるが、日中の対話も停滞しかねない。武器使用への冷静な議論と同時に、緊張回避への視線が欠かせない。

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