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2023.02.04 08:00

【児童手当拡充】「社会で支える」は本物か

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 児童手当に設けられている所得制限が撤廃される見通しが強まっている。少子化対策の拡充は喫緊の課題だ。その方向感には沿う。だが、唐突な方針転換であり、場当たり的な対応のように映る。
 児童手当は現在、中学卒業まで支給されている。所得制限の撤廃は、自民党の茂木敏充幹事長らの提案を受け、政府が調整している。
 これまで自民は、「子育ては家庭の責任」との姿勢だった。民主党政権が2010年、「社会全体で子ども一人一人を支える」との理念で、一律支給の「子ども手当」を創設した際には、「愚か者」と罵倒して反対した経緯もある。
 その後、12年に児童手当に名称が変更され、所得制限が復活。昨年10月には、年収1200万円以上の高収入世帯を完全に対象外とした。4カ月前に、所得制限をより厳しくしていたわけだ。
 子育て政策の重要な「理念」の部分を、短期間で変えたことになる。自民幹部らは過去の「反省」を口にするが、何を反省しているのだろうか。具体的な説明はなく、このままなら「朝令暮改」「一貫性がない」との批判を免れない。
 実際は、統一地方選対策の側面が先立っているのではないか。
 岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を掲げる。だが財源に不安があり、アピールできる具体的なものは打ち出せていない。その点、所得制限の撤廃は、野党の賛同が得やすい。財源も、対象年齢の拡大などに比べれば少なくて済む。
 もし、政権の実績作りのための小手先の対応であり、「社会全体で支える」姿勢がこれにとどまるようなら、有権者にも響くまい。
 財源は依然不透明だ。自民内に異論もある。政府、党の議論の熟度の低さが目に付く。育児中の女性のリスキリング(学び直し)支援を巡る首相発言に「実態を知らない」との批判もあった。
 少子化対策への意気込みはよいとしても、「異次元」の言葉が先行する状況と言ってよいだろう。
 危惧するのは、所得制限の是非のような具体論や、それを巡る政党間の調整に労力がさかれ、全般的な視点や施策の実効性が置き去りにされることだ。昨年の出生数は80万人を割る見通しで、状況は深刻だ。成果にこだわらなければならない。
 所得制限の対象者は全体の4%程度であり、撤廃の効果は限定的と言える。児童手当そのものも、重要な支援策には違いなく、これから対象年齢の拡大や増額を検討するというが、現金給付のみで出生率が大幅改善するわけではない。
 少子化対策は、若者の経済支援、結婚や出産しやすい環境づくり、仕事と育児の両立支援など、幅広い分野にわたる。これまで成果が出ていない取り組みは、新しいアプローチも必要だ。
 「子どもを社会全体で支える」との理念を与野党で共有し、早急に各方面に落とし込んでいくべきだ。それには当然、財源論が欠かせない。

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