2023.01.07 08:46
若年性認知症当事者の山中しのぶさん、高知県香南市にデイサービス開所 「自分は一人じゃない」と感じて
利用者の男性と一緒にミカンを収穫する山中しのぶさん=右(香南市香我美町山北)
山中さんが若年性アルツハイマー型認知症と診断されたのは41歳の時だった。
営業の仕事を辞め、一時期は鬱(うつ)状態にもなったが、周囲の支えで体調は回復。おととし病気を公表し、病気への偏見をなくそうと各地で講演活動を展開してきた。そんな中、昨年10月に香南市野市町深渕の古民家を利用して「はっぴぃ」を立ち上げた。
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「今日は何をしようかねえ」。「はっぴぃ」の一日は、利用者とスタッフのミーティングから始まる。ある人は得意の編み物をし、別の人はスタッフとおしゃべりを楽しむ。各自がやりたいことをして自由に過ごすのが特徴の一つだ。
「折り紙とか体操とか決められたことを、決められた時間にするのもいいと思うけど、私の施設ではしたくなかった。だって、自分やったら嫌やき」と山中さん。現在、要介護1以上の高齢者ら7人を受け入れている。
利用者も居心地の良さを感じているようで「アットホームな雰囲気で癒やされる」「これほどハッピーな場所はない」。利用者の家族からも「スタッフが温かく寄り添ってくれる」「おじいちゃんが生き返ったように元気になった」と喜びの声が上がる。
山中さんがデイサービスを開設しようと決めたのは、自身の認知症が分かってからのこと。「いつか私も施設のお世話になる」と将来の居場所を探す中で、自分が入りたいと思える施設を自分でつくろうと考えるようになった。
心に刻む体験がある。
転職を考えていた数年前、県内の施設を見学に行った時、職員が認知症の高齢女性の頭をスリッパでたたく場面を目にした。職員は「かまんかまん。このババア、ぼけちゅうき分からん」。高齢者が〝問題行動〟を起こすとトイレに閉じ込めているとも聞き、強い憤りと悲しみを覚えた。
「認知症でも何をされたか全部分かっちゅう。みんなが孤独を感じず、来て良かったと思える居場所を、私は絶対つくる」
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「楽しいねえ~」。同市香我美町のミカン畑で、山中さんらスタッフと利用者の男性が、収穫作業に汗を流していた。1時間ほどの仕事を終えた男性はミカンを手に「最高!」と満面の笑みを見せた。
「はっぴぃ」は「働くデイサービス」でもある。現在、同市や南国市などの5社と契約。利用者が行ける時に収穫作業、洗車や清掃などを行い、対価として謝礼をもらう「有償ボランティア」を取り入れている。
山中さんは「認知症だからと、できることまで奪われたくない。社会に貢献しているという実感を持つことが、病気の薬となり生きがいにもなる」。
協力企業は、山中さんが趣旨を説明して〝営業〟に回り、少しずつ増やしている。ミカン収穫の依頼元である「山北みらい」の堀川里望(りぼう)社長は「利用者の人が元気になるのなら、うちの場所をどんどん使ってほしい」と話す。
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山中さんにとって初めての介護業界は、分からないことだらけで戸惑いも多い。だが、これまでの人生の中で最も成長を感じる時間でもあるという。
「認知症になってもまだまだできる。多くの人に支えてもらいながら、前向きに活動する私の姿を見てもらいたい。そうすることで認知症への偏見も少しずつ変わっていくのかな。物忘れがあったって平気。楽しいことはいっぱいある!」
今後、県内各地にデイサービスを開所したい考え。「高知中にハッピーをどんどん増やしていきたい」。挑戦は、まだまだ続く。(石丸静香)