2022.12.27 08:00
【自衛官の性暴力】処分者だけが問題なのか
被害の訴えを受けながら十分な調査をしなかった部隊の中隊長も停職6カ月となった。このほか3人が訓戒や注意などの処分を受けた。
関係者全員が事実関係を認め、女性の主張がほぼ確認されたという。重い処分は当然である。
一度に5人が免職になる異常事態である。防衛省や自衛隊の信頼が問われる。人権意識の向上と再発防止を強く求める。
この問題では20代の元隊員女性が実名を公表して被害や真相解明を訴えていた。
防衛省によると、女性は福島県内の駐屯地に所属。昨年、演習場で胸を触られたり、覆いかぶさって腰を押しつけられたりした。抱きつかれる行為も日常的に受けていた。
女性が元気をなくし、異変を感じた別の隊員が中隊長に報告したが、中隊長は十分な調査をしなかった。被害はその後も続き、誰にも言わないよう、口止めをする男性隊員もいたという。
女性は中隊長に直接訴えたが、やはり、まともに対処してもらえなかったようだ。中隊長は女性が任務を離れざるを得なくなった際も、上司の大隊長に家庭の事情だと報告していた。
自衛官は国民の命や人権を守る立場にあり、社会的責任も重い。その自衛官が5人も立場の弱い隊員に繰り返しセクハラ行為をしていたのは衝撃だ。
管理監督する立場にある上司も責任を放棄。被害を助長したといっても過言ではない。組織に自浄作用がなく、隠蔽(いんぺい)体質だと受け取られても仕方がない。
大半の隊員は真面目に業務に当たっている。ただ今回の問題は果たして処分者だけの問題として済ませてよいのだろうか。今回の件を受け、防衛監察本部が防衛省や自衛隊の職員、退職者らを対象に行った特別防衛監察の結果からも疑問が湧く。
先月末までに1400件以上のハラスメント被害の申し出があり、うち約1割をセクハラや妊娠、出産、育児などに関するマタハラなどが占めたという。表面化している被害は一部とみるべきだろう。
信頼できない組織に火器を委ね、国の防衛を任せることはできない。政府はいま、国民的な議論を欠いたまま、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など防衛体制の強化を目指しており、なおさらである。
浜田靖一防衛相はハラスメントは「隊員相互の信頼関係を失墜させ、自衛隊の精強性を揺るがす」とし、再発防止を強調。先日、新たなハラスメント防止対策を提言する有識者会議の初会合を開いた。
ただ、それも適切に実態が把握できてこそ役立つものであろう。特別防衛監察で把握した被害の徹底した調査と原因を突き止めなければならない。