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2022.12.17 08:34

屋台にともる夜の活気―[音土景] 音感じる土佐の風景(24=終)

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 午後8時。高知市の中心市街地、グリーンロードで二つの屋台に灯がともった。その一つが「松(まっ)ちゃん」。寒風の中、肩をすくめた酔客がぞろぞろ吸い込まれていく。

 屋台のあるじは宮元辰治さん(69)=同市介良乙。元は別の屋台の店員。追手筋などで長く屋台を続けていた先代の“松ちゃん”から1998年に屋号を継ぎ、ここで始めたという。

 ビニールカーテンをくぐると、長机に丸いすが30ほど。路面の汚れ防止のブルーシートが敷かれ、屋根代わりのシートを物干しざおが支えている。メニューはギョーザ、おでんにラーメン。ビールに酒、焼酎。寸胴鍋から湯気が上がり、鉄鍋から炎を上げる。変わらない営みが続いている。

 ■   ■ 

 この日は週末。早い時間から観光客が入れ代わり立ち代わり訪れ、次々とギョーザを注文する。

 「ひろめでスタートしてここが3軒目」と話すのは北海道から来た50代女性。「札幌は皮がもっちり。パリって新鮮」と熱々をほおばる。屋台をはしご中という東京都の45歳男性は「軽いから何個でもいけちゃう」と箸が止まらない。

 那覇市の上江田淳さん(48)は、高知大に進む息子の啓介さん(19)の住まい探しに来高したという。「沖縄って屋台ないんですよ。息子がどうしても行きたいと。寒かったけど、おいしいものにありつけた」と淳さん。啓介さんも「人生初屋台、むっちゃ満足です」。ほくほく顔でギョーザとラーメンを味わう。

 大にぎわいだが、新型コロナ禍の2020年以降、普段の客足は以前の半分近くに減っているという。店の奥で、ギョーザの皮にあんを包む宮元さんは「週末はほとんど観光客。地元客は減ったね」。5年ほど前には通りに7軒の屋台があったが「コロナが怖いって開けちょらん人もおる」。

 この日の営業は、松ちゃんと「じゅんちゃん」だけ。宮元さんが手を止めることなく語る。「えい時はえいし、しんどい時もある」「この味目当てで来てくれる人がおる限りは、続けんといかん。やめられんでよ」。

 ■   ■ 

 忘年会帰りという高知市の会社員(48)が赤ら顔でギョーザをつまみ「何か、入りたくなるんですよ。高知の残したい文化ですねえ」とビールをぐびり。

 ざわめく店に、冷たい風と一緒にグループが入って来た。「ギョーザ3人前ちょうだい」「はいギョーザ3丁」。鉄鍋がこんろに当たり、炎が上がる。「お待たせえ」。湯気を上げた皿がテーブルに並ぶ。

 麺をすすり、鼻をすする。ビール瓶がグラスにぶつかる。あちこちで笑い声が上がる。夜がにぎわいを増していく。(山下正晃)

 =シリーズおわり

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