2022.12.20 17:20
高知東生さんが語る男の生きづらさ「女を守る」「男は女の3歩前」 “男道”自省、自分の弱さ受け入れ楽に
「男性から見た身勝手な『男たるもの』は、いまだにふっと出てくる。でも今はそれに気付けるようになった。それは自分にとって成長だと思うし、ありがたい」と語る高知東生さん (2022年10月、東京都内)
■刷り込まれた理想像「男は女の3歩前を歩け」
――ツイッターで、自身の生きづらさの一因に「ジェンダーロール」を挙げている。どういうことか。
高知:薬物で全てを失い、俺が向き合わなきゃいけないことは何だろうと考えた。自助グループの仲間と出会い、(自分を見つめ直す)依存症回復プログラムをやって、自分の生きづらさに気付いた。入り口は薬物だけど、振り返ると、実は一番苦しめられたのは「男らしさ」「女とは」というジェンダーロールだった。
子どもの頃、たぶんばあちゃんだったと思う。「男は女の3歩前を歩け」と言われた。事故や不測の事態が起きたときは男が女性や子どもの前に出て犠牲になれ、と。それが女性や家族の守り方、男の理想像だと思ってたんだよね。
青春時代はバブル景気。当時は「アッシー」「メッシー」「みつぐ君」という言葉があふれ、ジェンダーロールがまかり通っていた。身長、学歴、収入が高い「3高」じゃないと男として認めない、みたいに言われ、余計に「男とは」を意識した。
バブル景気まっただ中の高知の街。正月の帯屋町アーケード街は大にぎわいだった(1988年1月3日撮影)
――身に付けた「男らしさ」は、人生にどんな影響を与えたのか。
高知:俺が付き合った女性はみんな、自分の足で立てる人たちだった。でも「頑張りは分かるけど、男を立てろよ」と認めたくない自分がいた。(相手が仕事で結果を出すと)意味もない歯がゆさ、自分が負けてるんじゃないかって感情が生まれて、ときには怒りに変わった。女性はしっかり生きてるのに、勝手に「守らなきゃ」と重く感じて苦しくなって、相手から逃げたくなったこともある。
行き詰まった会社経営も、家族や信頼できる専門家に助言をもらっていれば道はあったのに、「男が弱音を見せたら負け」みたいな変な縛りで誰にも相談できなかった。家族に迷惑かけたくねえ、弱いとこ見せたら嫌われる、と思って。「女を守る」と言いながら、自分の妄想に縛られていた。
田中:高知さんは、奥さんも彼女もバリバリ活躍してる人だったのに、1人で「俺が守らなきゃ」と苦しんでいたんだよね。会社でも、経営の根幹に関わる問題を早くから忠告していた部下がいたのに、「女同士のいざこざ」だと見なして、ちゃんと話を聞いていなかった。
ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表。高知東生さんの回復を支援している(2020年9月、高知市内)
■仲間がくれた気づき「『助けて』と言えて幸せ」
――生きづらさと「男らしさ」の関係性には、どうやって気付いたのか。
高知:(逮捕され)自分のしでかしたことを反省して、自助グループや回復プログラムでジェンダーロールにも向き合った。
最初は意味が分からなかったよ。でも、俺を支えてくれている仲間は男女関係なく「人として」向き合ってくれていると、ふと気づいた。自分の弱点も認めて受け入れてから、人生が楽になった。今は相手を人として見て、「助けて」「ありがとう」と言える。今がどれほど幸せか。
田中:もめるのを恐れずに、さんざん話し合ったからね。回復プログラムの中で、高知さんは自分が抱えきれない責任を抱えていると分かってきた。最初の頃、高知さんの話の端々に違和感があって。私に対して「女にこういうことしてもらうのは何なんだけど…」みたいな言い方をたびたびする。この人は変なこと言うな、って思って、ずばずば指摘した。
高知東生さんのツイッター投稿。ジェンダーやハラスメントについての考えを記すことも多い
高知:俺の理想は、リーダーシップがある男だった。慕われて、どんな悩みごともさっと解決できて、女性は3歩後ろを黙って付いてくる。でも俺は全然リーダーシップないし、難しいことはさっぱり分かんない。なのにかっこつけて「頑張れよ」「明けない夜はねえぜ」と言ってた。そんな中身のない根性論、言われた側は徒労感しかないよね。
田中:自分と全く違う理想像を描くから、どんどん自尊心が下がる。高知さんの一番の魅力は、人に甘えられる、愛されるところ。リーダーって、面倒くさいこと、責任が重いことを誰よりもやるから人がついてくる。高知さんは、全然そんなことしないのに、周りが仕方ないなと思って世話をしちゃう「愛され力」がある。でも、その長所を本人はいいと思わなくて、むしろかっこ悪いと思っていた。
高知:人間ってそうそう変われない。ただ、長所短所も本当に紙一重だと思う。自分に向き合って、自分の正しい取扱説明書をわかってきた。
■芸能界のハラスメント「声を上げられる時代になり良かった」
―ツイートで、芸能界でのセクシャルハラスメントについても言及している。
高知:昔、ドラマの撮影で、大御所さんが平気で女優さんの尻や胸を触っていた。それでも女優さんは笑っていて、「大御所って何でも許されるのか」と思っていた。監督でも「自分を強く見せよう」と誤解した人だと、新人女優に泣き芝居を何十回もやらせるとか。全部一緒、ちゃんとやってるように見えたのに。
SNSとかで発信できる今だからこそ、みんなの目に届くようになったけど、昔も声を上げられる手段がなかっただけで、みんな苦しんでいたと思う。こういう時代になって良かった。
田中:高知さんがテレビ界や芸能界の高慢さ、ハラスメントが許されていたわけじゃないと気付いたのは、依存症の人たちと出会ったからだと思う。薬物依存症の女性には、性暴力被害に遭った人も多い。被害の記憶を忘れたくて、覚醒剤のような強い薬物を必要とする。それを知って、セクハラ、パワハラをエンターテインメイントにすること、面白おかしく話すことが人を傷つけると気づいた。
高知:それはでかい。俺も昔は自分本意に物事をしゃべって、どれだけ相手を傷つけていたか。今は一人一人をリスペクトして、認め合うべきだって理解できた。いまだにちょくちょく失敗はする。でも、言葉を選ぶときに「ちょっと待て、これは間違ってるな」と、徐々に気づけるようになってきた。
2020年、自叙伝出版についてのインタビューに応じる高知東生さん。「最近、昔は絶対言えなかった『寂しい』『怖い』が言えるようになったよ」と話す表情は柔らかかった(高知市内)
■悩み抱える人へ「自分の弱さも、恥と思わず相談して」
―ジェンダーロールで生きづらさを感じている人にヒントがあれば。
高知:俺は自助グループで、心の内を「どんな小さなことでもしゃべっていい」と思えた。本当の自分を言葉にして楽になった。だから依存症を超えて、生きづらさを感じる人たちのいろんな自助グループがあるといいね。ただそばにいて話すだけ聞くだけ。大事なことだけど、そういう場ってなかなかない。
田中:私たちも自助グループに出会ったのは大きい。一人で苦しんでる人は、苦しいときって苦しいってことに気付けないから。
高知:モヤモヤしたら、自分の中に閉じ込めないで吐き出す。自分の周りに信頼できる人がいるなら、自分の弱さもありのままをさらけ出して、相談してみることが大事じゃないかな。答えがなくても、話すことで楽になることはある。
田中:1回の相談で諦めないのも大事。1回相談して、余計に傷つく対応をされて諦める人も多いけど、相談したらみんなが的確なアドバイスをくれるっていう幻想は捨てて。ギャンブルじゃないから、1発で当たり引くのは難しい。
高知:そうだね。相談するのは同じ価値観のコミュニティじゃない人がいいと思う。違う立場だから話せることもあるし、自分が聞いてつらいことが大切なヒントかもしれない。もし相談した答えが期待と違ってもめげないで。恥と思わず、いろんな人に相談してほしい。
(聞き手=森田千尋)
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