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高知新聞PLUSの活用法

2022.12.15 00:04

【K+】vol.192(2022年12月15日発行)

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K+ vol.192 
2022年12月15日(木) 発行

CONTENTS
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第三十九回
・はじまりエッセイ letter194 中西なちお
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.194 山岸義浩
・特集 古道具の旅|◎遠路
・なにげない高知の日常 高知百景
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.66|自然薯@安田町
・ちいさいたび #11
・+BOOK REVIEW
・Information
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真


特集
古道具の旅
遠路

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真


捨てられる物を、必要な人の元へ。
持ち主の思い出とともに、物を生かす古道具屋のお話。


「おきゃく」で使われた皿やポップな柄のグラス、文房具、竹籠など、雑多に並ぶ中からお気に入りを探す楽しさ

「おきゃく」で使われた皿やポップな柄のグラス、文房具、竹籠など、雑多に並ぶ中からお気に入りを探す楽しさ



捨てられる物を、次につなぐ

 ある人にはいらない物が、ある人には欲しくてたまらない物だったりします。田舎に増える空き家。その空き家を壊す前に、捨てられるはずの家財道具の中から、心に留まった物を買い取り、欲しい人の元へ届ける古道具屋が、四万十町にあります。
 その店の名は「遠路」。店主の田村彩花さんは、物に残る持ち主の思いとともに、物を人から人へつなごうと店に立ちます。開業して2年目。「捨てる物を見てほしい」との連絡が増え、そのたびに家々に足を運び、捨てられる物と向き合います。訪問先では、家や物に残る物語を聞くことを欠かしません。「『この傷は、子どもが付けてね』というような思い出を持ち主の方から聞くと、お客さんにもその話を伝えています。傷や汚れはマイナスと思われがちですが、それができた背景を知ると、次の持ち主にも愛着が湧いてマイナスじゃなくなると思うんです」
 さまざまな年齢層の人が訪れる店舗。昭和を知らない世代からは「レトロでかわいい」の声。昭和を生きた世代からは「家にもあった。懐かしい」の声。
 ここに並ぶ物たちは、新たな持ち主と出合い、生かされ、次なる旅を続けています。









古い物に価値を感じて

 高校生の頃からリサイクルショップに通い、掘り出し物を探すのが好きだったという田村さん。高知市にある全国展開の雑貨屋の世界観も好きで、同店で数年勤務。結婚を機に退職し、自宅で過ごす時間が増えるとDIYにはまったと言います。当時、家具を手作りし、オールド調に見せる加工にかっこ良さを感じていたそう。約5年前、子育て環境を考え、夫の地元の四万十町に移住すると、空き家をDIYで改装して住み始めます。
 ある日、夫の祖母に「捨てる物があるから見にきい」と誘われたことが、古道具に魅了された大きなきっかけに。「祖母の家で、オールド調ではなく、本物の古い良い物に初めて触れて。何年も大事に使われてきた生活の道具が、自分の手元にあることが奇跡だと感じました」


〝もったいない〟という気持ち

 昔の家には、古くてかわいい物がいっぱい。でも、いらない物として捨てられている現実。また、移住したいと家を探す人がいる一方で、空き家には物が残り、貸すのが難しいという家主の苦悩。それを知った田村さんに、「なんとかしたい」という思いが湧きます。そして、「古道具屋になろう」と決め、長野の古道具屋で研修した後、2021(令和3)年に店を開きます。
 田村さんは、古い物の新しい使い方の提案にも力を入れます。例えば、とっくりは花瓶に、木の鍋蓋(なべぶた)は壁飾りに。「現代の暮らしで使いづらい物も、見方を変えたら生活に寄り添わせられます。今、物が捨てられ過ぎだと感じます。使い道があるのに、もったいない。少しでも捨てられる物を減らし、次の担い手につなぎたいです」


移住したばかりで町や人を知らなかったため、四万十町のビジネスプランコンテストに参加。その後、多くの人に助けてもらったそう

移住したばかりで町や人を知らなかったため、四万十町のビジネスプランコンテストに参加。その後、多くの人に助けてもらったそう


プロフィール
田村彩花さん
高知市内の雑貨屋で勤め、仕入れから販売までを経験。夫の地元の四万十町に移り住み、2021(令和3)年に古道具屋「遠路」を開業。高知市出身。30歳












物が循環することを大切に

 買い取る際の基準は、「今の生活でも使えるか」や「次につなげたいと思えるか」。そして、手頃な価格設定にもしています。「回収してきた物が、使えない、高過ぎるといった理由で次の人に渡らずに自分の店にとどまると、使われなくなった物が移動しただけになるので、すくい出して次につなげ、きちんと循環させることがこのお店の役目だと思っています」と田村さん。
 店内には、生活雑貨や食器、家具など、昭和レトロな品々が並びます。四万十町内から引き取った物が8割、他の地域の物が2割だそう。県外から店を訪れる人もいて、その品々は“古物好き”の心を掴(つか)んで離しません。
 今月からは、夫も加わり、夫婦で店を切り盛りしています。今、一番力を入れているのが、コーヒースタンドを併設した店舗リニューアル。ほぼDIYで改修し、来年春の完成を目指します。


気軽に古道具に触れる場を

 リニューアルする店舗は、扉や壁に建具などの古材を施し、家具や食器は回収してきた物を使い、古道具のある生活がイメージできる場にするそう。「古道具は敷居が高いと感じる人も多いです。興味がなくても、コーヒーを飲みに来てもらうだけでいい。気軽に古道具に触れてほしいです」
 そんな田村さんの今の喜びは、「物は必要としている人の所に行く」と思える瞬間に立ち会えることだと言います。かく言う筆者もずっと探していた古い世界地図がないかと尋ねたら、棚から昭和初期の地図を出してきてくれ、手にした瞬間のうれしさときたら。
 物は求める人の元へ。捨てるのではなく、壊すのではなく、大切に生かしてくれる人へと循環させて。人から人へ、時代から時代へ、旅する物が増えることを願います。








引き取ってきてから店に並べるまでで一番大変なのが、手入れ。汚れを落とすなどに時間を要するとのこと

引き取ってきてから店に並べるまでで一番大変なのが、手入れ。汚れを落とすなどに時間を要するとのこと


「捨てる前にいったん見せてほしいです」と田村さん。捨てる予定の物の中にこそすくい出したい物があるのだとか

「捨てる前にいったん見せてほしいです」と田村さん。捨てる予定の物の中にこそすくい出したい物があるのだとか





◎遠路
四万十町東川角乙605-1
問/070-3662-7024
営業日、営業時間の確認はInstagram/@enro_kochi


掲載した内容は発行日現在の情報です。予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。-->

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