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2022.11.07 08:00

【原発運転延長】不安拭えぬルール改正だ

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 エネルギー安全保障の将来像がぼやけたまま、原発が使い続けられるよう粛々とルールが塗り替えられていく。だとすれば、未曽有の原発事故の反省と教訓がないがしろにされていると言わざるを得ない。
 原子力規制委員会が、現在は「原則40年、最長60年」と定められている原発運転期間の規制で、見直し案を示した。運転開始30年後から10年ごとに設備の劣化具合を審査する形に変更する。政府が10月、現行ルールの撤廃方針を示したのを受け、新たな案を検討していた。
 「40年」は2011年の福島第1原発事故を受けて与野党で合意した期間であり、規制策の柱だ。
 40年、60年の期間の根拠を問う声は確かにあるが、原発は経年劣化で安全性が後退する。一つの基準を設けることに意義があろう。何より、原発依存度を下げていこうという象徴的な規制でもあった。それを軽々になくしてよいものか。
 そもそも、政府がルール撤廃方針を示したプロセスが乱暴だ。国民的なテーマにもかかわらず、ほとんど議論のないまま「脱原発」から「原発回帰」に転じ、原発の新増設方針と併せて打ち出した。
 撤廃方針に対する規制委の姿勢も納得できない面がある。山中伸介委員長は「運転延長は政策判断で、意見する立場にない」とした。
 だが規制委は、かつて一つの組織内に同居していた原発推進・規制の機能を切り分け、規制寄りに立った独立組織だ。規制緩和に意見しないのは、責任を果たしていないと言われても仕方あるまい。
 そうした批判を意識したためか、規制委は今回の見直し案の方向感は規制強化にあるとする。山中委員長は、設備の劣化評価を行う方法は「現行よりはるかに厳しい規制だ」と強調。政府が求める「審査中の原発の停止期間は運転年数に算入しない」との運用も認めなかった。
 ただし、60年超の運転に道を開くことに変わりはない。技術的に審査も難しくなる。経年劣化が進むほど安全性の立証は難しくなると規制委自ら認めており、専門家はリスクを見逃す恐れを指摘する。
 規制委は、古い原発ほど合格しづらくする考えを示している。ただ「最長60年」の縛りがなくなれば、仮に何かの課題があったとしても、運転延長をしたい電力会社などは全力で延命策を探ることになろう。
 規制を見直すのであれば、こうした不安を念頭に、審査の在り方を設計していく必要がある。
 政府、各党はそれ以前に、原発の位置付けについて国民的な合意を得られるよう急ぐべきだ。
 エネルギー分野では、脱炭素、電力逼迫(ひっぱく)などの課題があるが、それと原発の安全性は別次元の問題だ。使用後に出る高レベル放射性廃棄物の扱いも、現段階ではめどが立っていない。
 将来ビジョンに基づかないエネルギー政策は、場当たり的でかえって非効率的になる。改めて大局的な視点で議論を深める必要がある。

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