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2022.10.27 00:04

【K+】vol.190(2022年10月27日発行)

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K+ vol.190 
2022年10月27日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter192 中西なちお
・特集 安らぎの鈍色|堅田貴治
・フランス生まれの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉37
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.64|直七@高知市
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.192 服部伸
・Sprout Table vol.10 SAKANAとSAKE ふふ
・K+ cinema 記憶のなかの映画館⑲
・ちいさいたび #10
・+BOOK REVIEW
・日々、雑感 ある日 vol.23
・気の向くままに お気軽 山歩き ;38
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第三十七回
・なにげない高知の日常 高知百景
・Information
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真

特集
安らぎの鈍色
堅田貴治

いとうまいこ=取材 河上展儀=写真


末永く愛用したい、陶工の手仕事。
土に石に素直に向き合い、器は生まれる。




誠実に、器を作る

 陶芸に携わる者には、芸術表現を追い求める作家と、専門技術を極める職人がいるといいます。そうした中、高知市春野町の工房には、ただひたむきに、土と、そして釉薬(ゆうやく)と向き合う「陶工」がいます。名前は堅田貴治さん。堅田さんは、〝見せる〟ためではない、〝日常で長く使える〟ための上質な陶器を、その手で生み出しています。
 堅田さんの器には、華やかな装飾や模様はありません。形や色はあくまでシンプル。そのりんとしたたたずまいからは、和にも洋にもとらわれない美意識と、実直な仕事ぶりがうかがえます。そして「鈍色(にびいろ)」をはじめとするダークでしっとりとした色合いは、クールでありながらどこか優しい。自身で、何度も何度も実験を繰り返し、もがき苦しんだ末にたどり着いた釉薬が、静かで安らかな表情を放ちます。
 「好きなものを求め、実験を積み重ねてこの色ができました」と堅田さん。その個性は、主張し過ぎることなく器に息づいています。「形にしても色にしても、無理に自分らしさを出す必要はないと思っています。素材を理解し、素直に向き合い、きちんと仕事をしたい。それで十分だと思っています」
 かつて柳宗悦は、手仕事によって生まれた実用的な工芸品を「用の美」とたたえました。用いられることを考え、誠実に丁寧に作った道具には、飾られめでられる美術工芸品にはない美しさがある。陶工・堅田貴治さんの器はまさに、用の美の心を感じさせてくれる暮らしの道具です。




熟練職人との出会い

 いの町出身の堅田さんは、「勉強は嫌いだけど、美術は好き」だったことから県内高校の美術コースへ。その後、京都の美術大学に進み陶芸を専攻します。しかし大学の学びは芸術表現に重きが置かれ、「ろくろを引きたい、手を動かして技術を身に付けたいと心がずきずきしました」と当時を振り返ります。
 そんな堅田さんに転機が訪れたのは、大学2年生の時。先生が、急須の名手である清水焼の熟練ろくろ師を紹介してくれました。目の当たりにしたのは、確固たるろくろ技術と職人としての威厳。ろくろ場に座り黙々とろくろを引く84歳の職人は「神やと思った」というほど格好良かったといいます。「目の前にすごい技術がある。片時も見逃せない」。その後も堅田さんは、彼の下に通いました。
 ここで感じた憧れ。自分にも、もしかしたらできるかもしれないという思い。それが、「作家をやっているつもりはないんです。職人の方が好きですね」という堅田さんの原点になっています。


素地と釉薬の収縮差によって、表面にひび模様のような「貫入」が入る。墨を入れることでその模様はより鮮明に。一つ一つ異なる表情が奥深い

素地と釉薬の収縮差によって、表面にひび模様のような「貫入」が入る。墨を入れることでその模様はより鮮明に。一つ一つ異なる表情が奥深い


素焼き後、窯に松の葉を投入、すすを表面に吸着させて黒くする「黒陶」も制作

素焼き後、窯に松の葉を投入、すすを表面に吸着させて黒くする「黒陶」も制作



精巧なろくろ技術で

 「とにかくうまくなりたかった」という堅田さんは、大学卒業後、京都の陶芸専門学校に通います。ここで基礎から学び直して技術を身に付け、就職。その後、縁あって知人から春野町の工房を借り受けることに。これを機に高知に帰郷し、独立しました。
 堅田さんは「失敗しなくなったらつまらない。常に新鮮な気持ちで挑戦したい」と話します。当初は磁器を手がけたり、陶器も軽さにこだわったりしていましたが、今は京都から取り寄せた赤土と白土を使い、程よく重みのあるカップやプレートを主に作っています。
 器はどれも線は伸びやかで、曲面はあくまで柔らかい。そして高さや口径は型にはめたように誤差が少なく、プロダクトを思わせる精巧さがあります。これこそが堅田さんの真骨頂。「思いを持ってろくろを引いています。そこは譲れない」。装飾技法に頼ることなく、積み上げたろくろ技術と感性で一つ一つの器を生み出しています。


和食にも洋食にもマッチするシンプルなプレート。手前から時計回りに鈍色、青鈍、灰

和食にも洋食にもマッチするシンプルなプレート。手前から時計回りに鈍色、青鈍、灰






深い色とマットな質感

 焼き物、つまり陶磁器には、土を主な原料とする陶器と、石を主な原料とする磁器があります。多くの陶器は重みがあり土ならではの柔らかい風合いを、磁器は硬く、すがすがしい印象を感じることが多いでしょう。
 では堅田さんの器は。陶器ならではの確かな温かみがありながら、土物っぽくない、磁器を思わせるクールさも併せ持っています。それを表現しているのは、独自調合の釉薬なのかもしれません。
 堅田さんの現在の主な色表現は、「鈍色」「青鈍」「灰」の三つ。釉薬は黒色片岩という岩石をベースに調合し、つやのない焼き上がりにしています。テクスチャーにざらつきはなく、吸い付くように手になじむ。色合いはこっくりと奥深く、時にひび模様・貫入が入り表情豊かに。どの器も時間がたつほどに味わいを増し、使う人に寄り添い続けます。

高知市の家具工房「COMMONMFG.」とコラボレーションしたキャニスター。コーヒー豆や茶葉、塩や砂糖などの保管に

高知市の家具工房「COMMONMFG.」とコラボレーションしたキャニスター。コーヒー豆や茶葉、塩や砂糖などの保管に


たとえ割れてしまっても、繕えば器は永遠に

たとえ割れてしまっても、繕えば器は永遠に



春野町の工房で、一人素材に向き合う堅田さん。その真摯な姿勢が、器に表れている

春野町の工房で、一人素材に向き合う堅田さん。その真摯(しんし)な姿勢が、器に表れている



長く使ってもらうために

 お店や個人からオーダーを受け制作する堅田さん。打ち合わせを経てこれだというものを共に見いだす仕事が、人と作っている感じがして好きだと話します。
 そしていざろくろを引く時は、常に最終形が見えています。だから土に触る時間は非常に短い。ろくろの上では、その手から命が吹き込まれるように、器が次々と生まれます。「時間をかけて思っている物を作るのは当たり前。一手一手、深いところに意識を置き、手数を減らしてしっかり形を出してあげたいと思っています」
 こうして生まれた器は、「僕の物じゃない。お客さんが使う時間の方が圧倒的に長いですから」と言う通り、使い手の下で育っていきます。使い込むごとに茶渋が付いたり、貫入がはっきりしてきたり。経年変化を楽しめるのも、陶器の魅力といえるでしょう。
 割れても繕えば器は使えます。寿命は無限といっても過言ではありません。「だからこそ作り手として、ちゃんとした仕事をしていきたい。長く使ってもらうために、そして大事にされるために」。その揺るぎない思いを胸に、堅田さんは今日も地道にろくろに向かいます。







プロフィール
堅田貴治さん
京都造形芸術大学、京都府立陶工高等技術専門校卒業。京都の窯元に就職、帰郷し独立。いの町出身。35歳

◎問い合わせ
t.katada1987@gmail.com
Instagram/@mitsuwa_since2011




<取扱先>
COMMON MFG.
高知市南久保10-39
問/088-802-8638
https://common-furniture.com/

Joki Coffee
本山町本山521-1
問/0887-72-9309
https://www.jokicoffee.com/

京都おうち(京都府京都市)
https://kyotoouchi.shop-pro.jp/

まちのシューレ963(香川県高松市)
https://www.schule.jp/


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