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2022.09.28 05:00

【安倍元首相国葬】分断招いた責任は重い

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 一般向けの献花台に列ができた一方、反対集会が開かれる。世論が割れる中、安倍晋三元首相の国葬が営まれた。戦後2例目となる。
 参院選の遊説中に安倍氏は銃撃され死去した。「いったい誰が、こんな日が来ることを、寸毫(すんごう)なりとも予知することができたでしょうか」。岸田文雄首相の弔辞の通り、その衝撃は大きかった。
 事件の6日後には首相は国葬実施を発表している。暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を打ち出した。また、史上最長の首相在職日数を記録したことなどを理由に挙げた。
 だが、こうした対応に世論の受け止めは分かれていく。9月の調査では、国葬反対が6割を占めた。実施を決定した経緯についても説明不足とする批判が多い。
 政教分離を定めた現行憲法の制定で、戦前の「国葬令」は失効している。法的根拠が不明確なため、なぜ安倍氏が対象となるのかが分からない。首相は国葬は行政上の行為と位置付けるが、国会に諮らずに決めたことを問題視する意見は根強い。
 また、首相は弔意の強制はしないので内心の自由は侵害されないと主張している。地方自治体や教育委員会などには弔意表明を求めていない。だが、強制につながりかねないとの懸念が高まる中での方針表明であり、対応は遅れが目立った。
 国葬の費用についても、政府は2022年度予算の一般予備費から約2億5千万円を支出すると決定し、総額は国葬後に示すとしていた。だが、世論の批判を受けて、16億6千万円程度とする概算額の公表に追い込まれた。後手に回る対応はかえって不信を招く。
 首相は弔辞で安倍氏の政治的実績に触れた。確かに外交や安全保障面などの功績をたたえる声がある。一方で集団的自衛権の行使を認めた安保法制や経済政策などには批判もあり、評価は定まってはいない。
 銃撃事件の容疑者の供述から、反社会的と指摘される世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関わりが注目されるようになった。安倍氏が組織票を差配したとの報道もあるが、首相は検証に否定的だ。岸田内閣の支持率低下の主因の一つであり、重く受け止める必要がある。
 首相は、最大派閥の安倍派に配慮しながら挙党態勢を築きたいようだが、国民の意識を分断した責任は重い。これでは安定した政権運営は期待できなくなる。何より静かな追悼を遠ざけてしまった。
 国葬を巡って映し出されたのは首相の姿勢だろう。参院選後の臨時国会では言及がなく、野党の臨時国会召集要求は見送ってきた。閉会中審査には応じたが、同じ言葉の繰り返しなど十分な回答はなかった。
 これでは、首相が国民の理解が重要であることを念頭に説明責任を果たし続けると訴えてもむなしいものになる。国葬や旧統一教会との関係は、来月に召集される予定の臨時国会での論点となる。正面からの論戦を避けてはならない。

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