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2022.09.25 08:00

【規制委10年】問われ続ける独立性

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 東京電力の福島第1原発事故を踏まえ、国の原子力規制委員会が発足して10年たった。事故後に自然災害やテロなどへの安全対策を強化した新規制基準に基づき、これまでに10原発17基が審査に合格し、うち10基が再稼働している。
 原子力行政、原発再稼働に対する国民の視線はいまも厳しい。その一方では、原発の推進に向けて規制委に「審査の効率化」を求める声もある。しかし、事故の反省に立つなら安全性に優先するものなどあるはずがない。組織の独立性、審査の厳格さを維持できるかどうか。その存在意義が問われ続ける。
 原子力規制は従来、電力業界を所管する経済産業省の枠組みの中に位置付けられていた。推進と規制が同居する中で生じたゆがみは、国会の事故調査委員会に事故の背景として「(電力業界の)虜(とりこ)」と断罪された。独立性と中立性は組織の根幹といってよい。
 原子力行政に対する不信からの出発だったが、規制はおおむね客観的に運用されてきたのではないか。審査などのインターネット中継や議事録の公開で、議論の透明性を確保した意味は小さくない。
 大量の機器点検漏れなどの問題が相次いだ高速増殖原型炉「もんじゅ」を巡り、2015年には所管する文部科学相に運営主体の変更を勧告。安全性確保に立脚した判断は、結果的に核燃料サイクル政策の中核施設を廃炉に追い込んだ。
 21年にはテロ対策の不備が発覚した東電柏崎刈羽原発に核燃料の移動を禁じる、事実上の運転禁止命令を出した。安全性の担保を強く迫る姿勢は、電力業界が再び「安全神話」に陥らないよう緊張感を維持することにもつながろう。
 ただ、独立性が揺るがないように注意深く見守る必要がある。
 審査における厳格さは、時にスピード感と相反する。規制委は現在、建設中を含めて7原発10基を審査中だが、なかには敷地内の断層の活動性や、想定される津波の高さの評価を巡って審査が長期化している原発もある。こうした状況を「再稼働の停滞」とみる向きもあり、政財界では「審査の効率化」を迫る声も上がっている。
 岸田政権も「原発回帰」の動きを見せる。ロシアのウクライナ侵攻などによるエネルギー情勢の逼迫(ひっぱく)や温室効果ガスの排出量抑制を名目に、原発の新増設や建て替え、最長60年の運転期間延長などを検討すると唐突に表明した。
 事故後、「可能な限り原発依存度を低減する」としてきた政府方針の転換である。政治、政策の動きが規制委の審査に影響を与えるようなことがあってはならない。
 そもそも国民には事故から11年たった今も、原発に対する反発が根強い。世論調査では「今すぐ」「将来的に」を合わせ、原発ゼロを求める声が約7割に上る。再稼働の前提である規制委審査の独立性や中立性が損なわれれば、安全性への不信は一層高まることになる。

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