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2022.09.21 05:00

【自衛官の性被害】根絶しなければ信頼失う

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 自衛隊は国民の命を守るためにある。にもかかわらず、弱者の人権を軽んじる体質があるとしたら、由々しき事態である。
 防衛省が全自衛隊を対象に、セクハラやパワハラなどハラスメント被害の実態を調べる「特別防衛監察」に入った。防衛相が直轄し、元検事がトップを務める「防衛監察本部」が担当する。
 訓練中に性被害を受けた元陸上自衛官の女性(22)が調査を求めており、省内に設置されているハラスメント窓口への相談件数が急増していることも踏まえた。
 まずは被害者が相談できずに悩んでいる例や、相談しても適切に対応されていない例の把握に力を入れるという。これらを特別防衛監察という形で調査せざるを得なくなったこと自体、異常な事態といえよう。
 問題の根深さは、この元自衛官の女性の訴えからも分かる。
 女性は福島県内の駐屯地に所属していた昨年8月、3人の男性隊員に押し倒され、腰を振るしぐさをされるなどの性被害に遭った。多くの男性隊員が見ていたが、自衛隊内の調査では誰からも目撃証言が出なかったという。
 その後、警務隊に被害届を出し、3人は書類送検されたものの不起訴処分になった。女性はことし6月、自衛隊を辞め、実名で被害を公表して、「厳正な処分と謝罪」を求めている。
 女性は小学生の時に東日本大震災で被災し、その時の自衛官に憧れて2020年に入隊した。ところが、当初から日常的にセクハラに悩まされてきたという。
 退職後、この女性がネットでアンケートを実施したところ、自衛隊内のハラスメント情報が相次いで寄せられた。「同期がセクハラで自殺した」「宴会で服を脱がされ、拒否するとたたかれた」といった深刻な事例もあったようだ。
 防衛省によると、省内窓口へのハラスメント相談件数は21年度2311件あった。これは5年前の9倍余りに上る。
 啓発や教育が不十分であると同時に、相談に適切に対応できていない証しである。女性が実名で被害を公表せざるを得なかったことも、重く受け止めるべきである。
 自衛隊は過去の不祥事でも、隠蔽(いんぺい)体質や組織の風通しの悪さがたびたび指摘されてきた。今回も同じだと批判されても仕方がないだろう。特別防衛監察では、こうした組織の問題点も明らかにすることが求められる。
 浜田靖一防衛相は「自衛隊の精強性を揺るがし、決してあってはならない」事態とし、ハラスメントの「根絶を図る必要がある」とする。ハラスメント対策の見直しへ有識者会議を設置する方針も示した。
 遅きに失した感は否めないが、根絶しなければ、国民の信頼はもちろん、隊員の組織への信頼も失いかねない。これを機会にうみを出し切り、隊員が誇りを持って職務に就ける環境にする必要がある。

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