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2022.09.14 08:00

【英女王の死去】国民統合の象徴だった

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 英国のエリザベス女王が、滞在先の英北部スコットランドのバルモラル城で死去した。長男のチャールズ皇太子が新国王「チャールズ3世」として即位した。
 女王は、多数の民族や人種からなる英国社会の安定と国民の統合を象徴する存在だったといえよう。カナダやオーストラリアなど英連邦の元首を兼ね、英国教会の最高権威者でもあった。
 96歳という高齢で最近は歩行などが困難になっていたとはいえ、亡くなる2日前には保守党党首に選出されたトラス氏と面会し、新首相に任命していた。突然の訃報に、英国は大きな喪失感に包まれていることだろう。
 25歳の若さで即位し、約70年7カ月に及んだ在位期間は、歴代君主で最長だった。英国では議会の承認があれば退位することはできる。即位前の誕生日、「私の人生が長くても短くても、皆さんや王室への奉仕にささげることを誓う」とスピーチしたが、まさにその誓いを全うしたことになる。
 その足跡は、第2次大戦後の英国の歴史とほぼ重なるといってよい。世界の覇権を握った大英帝国の地位を失い、経済の疲弊から「英国病」とやゆされた時代もあったが、重工業から金融・サービスへと産業構造の転換を図ることで、成熟した国家へと発展した。
 この間「君臨すれども統治せず」という立憲君主制の原則を守り、政治への介入は控えていた。ただ、大きな節目には、自らの言葉で国民統合の象徴として存在感を示した。2014年のスコットランド住民投票では、英国分裂の可能性を懸念して「将来のことを慎重に考えるよう望む」と異例の発言。新型コロナウイルスが流行した20年には演説で「良い時代が来る」と述べ、結束を促している。
 王室外交にも積極的で、日本の皇室とも親交を重ねた。1953年の戴冠式に皇太子時代の上皇さまが参列。欧州の王室との交流のきっかけになった。女王は75年、英国元首として初めて訪日している。
 一方、私生活では順風満帆とは言いがたく、王室メンバーのスキャンダルなどで度々、危機的な状況に直面した。
 特に90年代には、チャールズ皇太子とダイアナ元妃の結婚生活が破綻。元妃の事故死に対して当初は沈黙を保った。このため一時は王室の廃止論が浮上するほど、国民から強い批判を浴びた。それ以降は「開かれた王室」へとかじを切り、国民からの支持を回復した。王室の歴史と伝統、時代の流れの間で、王室の在り方を模索し続けたといえよう。国葬は19日、ロンドン中心部のウェストミンスター寺院で営まれる。
 英国は新たな時代に入るが、ロシアによるウクライナ侵攻への対応、離脱した欧州連合(EU)との関係修復、国内ではインフレの加速など課題は山積している。国民の結束が問われる場面で、新国王がどういった王室像を示すかが注目される。

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