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2022.09.09 08:00

【安倍氏の国葬】世論と向き合うのが遅い

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 丁寧な説明で、政権に批判が向けられる局面を転換したいのだろう。しかし、そもそも世論と正面から向き合わなかったことが事態を複雑にした。懸念が消し去られたとは言い難い。
 安倍晋三元首相の国葬に関して初の国会論戦となる衆参の閉会中審査が、岸田文雄首相も出席して実施された。
 首相は、国葬を巡る説明が不十分だとの指摘を謙虚に受け止めるとの姿勢を示した。国民の理解が重要であることを念頭に、説明責任を果たし続けるとも述べた。
 その通りだろう。だが、国葬実施の意向を早々に示し、閣議決定からも時間がたっている。参院選を受けた臨時国会での言及もなく、賛否が割れる問題をやりすごそうとするような姿勢が続いた。首相の言葉はそのままには受け止めにくい。
 戦後の首相経験者として、国葬は2例目となる。首相は国葬を営む理由に、安倍氏の首相在任期間が歴代最長で、各国から弔意が寄せられていることなどを挙げてきた。
 法的根拠は重要な論点だ。政府は国の儀式を所掌するとした内閣府設置法と閣議決定を根拠と説明する。しかし、民意を代表する国会の関与がないまま実施へと進むことに違和感が向けられている。安倍政権の実績への評価は分かれ、根強い批判もある。根拠もさることながら、なぜ国葬なのかが首相の説明では判然としない。
 首相が国葬を判断したのは、保守勢力の政権支持をつなぎ留めたい思惑からだとの指摘がある。最近は海外要人を迎える儀礼上の観点からの必要性も打ち出してもいるが、国葬決定の理由とはなりにくい。
 費用を巡る意見も割れる。政府は総額16億6千万円程度との概算額を公表した。当初は会場設営費など約2億5千万円の支出を決め、総額は国葬後に示すとした。それが公費負担への世論の反発で事前公表に追い込まれた格好だ。
 確実な数字は終わった後に精査しなければ示せないというのは、その通りかもしれない。だが、額を小さく見せたいのではないかと疑念が向けられる状況となったのは、一連の対応が不十分だったことも影響している。世論の関心が高い事案だけに、突き放すような姿勢と受け止められては信頼は得られない。
 弔意強制への警戒も強い。政府は地方自治体などに弔意表明は求めないという。反対論拡大への懸念は強いようで、やはり後手の印象だ。
 首相は、安倍氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係の検証に消極的だ。そうした姿勢を冷ややかに見て、国葬批判の世論につながっているようにも思える。
 安倍氏が銃撃事件で亡くなった衝撃は大きかったが、ならばなおさら冷静な対応が求められた。国論が二分されては静かな追悼は遠のく。
 臨時国会の召集は見送られたままだ。召集期限の定めがないからと後ろ向きでは、国会軽視の批判を受けてしまう。

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