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2022.09.04 08:00

【防衛費概算要求】前のめりの増額を懸念

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 安全保障環境が厳しくなる中、防衛力への関心が高まる。脅威に対処する必要があるが、そのためには前のめりを排除した精緻な積み上げが重要となる。財源の議論を深めることも欠かせない。
 2023年度予算の各省庁からの概算要求は、一般会計で110兆円余りとなった。金額を示さない「事項要求」が目立つ。予算編成過程で金額が示されると、過去最大だった22年度を超える可能性がある。
 防衛省は過去最大の5兆5947億円を計上した。事項要求を多数盛り込み、当初予算額は6兆円台半ばをにらむ。
 岸田文雄首相は5月のバイデン米大統領との会談で、防衛費の相当な増額を約束した。また、あらゆる選択肢を排除しない方針を伝えた。
 経済財政運営の指針「骨太方針」には、防衛力を5年以内に抜本的に強化すると明記している。予算の大幅増額を容認する雰囲気の中で、要求が膨らむのは当然だろう。
 主な事業では、長距離ミサイルによる「スタンド・オフ防衛能力」確保へ向け地対艦誘導弾の射程を延長し、地上発射型は配備へ量産を始める。防空能力強化のため「イージス・システム搭載艦」の整備費を初めて要求した。
 現在のシステムで迎撃が困難とされる「極超音速兵器」への対処や保有の研究も進める。宇宙やサイバー、電磁波といった新領域を含む領域横断作戦能力の強化を図る。
 中国やロシア、北朝鮮を見据えながら抑止力を整備している。敵基地攻撃能力を改称して保有を検討する「反撃能力」を念頭にした動きにも力が入る。
 だが、こうした対応は憲法の「専守防衛」の理念を逸脱する恐れがある。歴代政権は、他に手段がない場合に限り誘導弾などの発射基地を攻撃することは自衛の範囲に含まれるとの見解を踏襲しつつ、政策判断としては持たないとする立場だった。なし崩しの保有は許されない。
 日本の防衛費は国内総生産(GDP)比1%程度で推移してきた。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費支出目標などと比較しながら、増額への要求は強い。
 もちろん必要な装備なら整えなければならない。そこで重要なのは金額ではなく、目指す防衛の在り方にのっとった整備のはずだ。
 財源の論議も深まっていない。高齢化で年金や医療など社会保障費が伸びるなど他省庁も予算規模が膨らむ中、予算全体での兼ね合いにも配慮する必要がある。国債の償還や利払いに充てる23年度の国債費は約27兆円が見込まれる。
 金融緩和策で金利上昇は抑えられているが、上昇すれば利払いが増えて政策に使える予算は限定される恐れがある。財源不足に陥れば防衛費の減額が迫られ、期待する整備が滞ることが想定される。一時的な対応はかえって重荷となりかねない。
 防衛力強化が東アジアの軍拡競争を加速させては元も子もない。冷静な議論を重ねることが不可欠だ。

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