2022.09.01 08:40
のしかかる実家「早く楽に」空き家率全国一、予備軍も―高知(ここ)に住まう 第4部 空き家という難題(1)
長年放置され、朽ちた空き家(県内)
つるされたままのジャケット、瓶に残った梅干し。風雨にさらされた畳は、もう人を支えられない。無造作に転がったクマのぬいぐるみが、寂しげに見えた。
県内の山間集落。国道から1本外れたかつての往還に、木造の民家が並ぶ。この1軒は5年前まで人が住んでいた。
「ここはもう空き家。あっちも、少し前に高齢者が亡くなって…」。地元で世話役の男性(74)が指で示しつつ、ゆっくり歩いていく。
カーテンや木製の雨戸が閉まり、ガラス窓の向こうに重なる布団や食器の影が、止まった時間を静かに伝える。200メートルに満たない通り沿いの約30軒中、空き家は7軒。男性は、所有者の親族らと連絡を取り、役場とも協力して管理や取り壊しを促している。
「プライバシーに入り込みすぎかとも思う。でも、放っておくと崩れて危険だし、観光地に近いから景観上もよろしくない。空き家〝予備軍〟も多いんですよ」
空き家は時に、重い負担となって子孫へと引き継がれる。かつて冒頭の1軒で暮らした男性、Aさん(42)のケースがそうだ。
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Aさんによると、この家には祖父母も含めた大家族で暮らしていた。
しかし、20年ほど前に母親が死去。その後、父親がたびたびトラブルを起こすようになり「家庭が崩壊した」。2人の兄は県外に去り、Aさんも結婚して実家を離れた。
祖父母が亡くなり、家に最後まで住んだ父親も入退院の果てに5年前に死亡。Aさんは相続を放棄した。
「借金など父の負の遺産をずっと払っていた。お金に余裕があれば違ったかもしれないが、メンタルが持たない。これ以上、関わりたくなかった」
家も土地も売れる見込みは低かった。Aさんはその後離婚し、今は3人の子どもと暮らす。子育てをしつつ、結婚生活でできた借金をようやく返し終えた2年前、1本の電話がかかってきた。
「空き家を処分してほしい」。世話役の男性からだった。
「父と縁を切り、相続放棄したのになぜ俺が?」
「家が崩れて被害が出たら、あなたに賠償責任がかかってしまう」
納得はできない。しかし、「賠償責任」の言葉にやむを得ず手続きを進めることにした。世話役から解体費の8割を補助する制度も伝えられた。
ここで、思わぬ問題が浮上する。
家の名義は祖父のままだった。その子ども世代は、親類を含めいずれも亡くなるなどし、相続権が自分たち3兄弟に残ってしまっている状態だった。
空き家とはいえ、私有財産。一部の相続権者のみの意向で解体すれば、訴訟になる恐れが残る。解体に補助を得るには3人の同意が前提条件となる。
困ったことに、2人の兄は所在不明だった。長兄とは父親の入院中に1度連絡したが、「俺には関係ない」と言い放ち、音信不通となった。世話役の男性も協力して、戸籍などを頼りに住所を調べたが「手詰まり状態」という。
次兄にはその後、連絡がついたが、やはり経済的に困窮していた。
Aさんは、子育てのため不規則な仕事に耐えつつ、同意を得ようと模索を続ける。「実家がこんな負担になってのしかかるとは。早く終わらせたい。楽になりたい」
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高齢化と人口減が進む高知県。「多死社会」の到来とともに、空き家が広がってきた。
総務省調査によると、本県の空き家は年2千戸ペースで増え続け、2018年の空き家率は全国トップの12・8%。県内39万戸のうち5万戸は売却や賃貸の目的がなく、空き家という難題は今後さらに加速するとみられている。
かつてめでたく建った「わが家」は、世代をつなぐうちにどう変わったのか。空き家をヒントに家の存在を考えた。(報道部・八田大輔)