2024年 05月02日(木)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

2022.08.31 08:00

【双葉町居住再開】本格復興の起点に過ぎぬ

SHARE

 2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降、全住民の避難が続いていた福島県双葉町で、帰還困難区域内の特定復興再生拠点区域(復興拠点)に出されていた避難指示が解除された。11年5カ月ぶりに住めるようになり、「人口ゼロ」の被災自治体は解消される。
 古里への帰還を待ちわびた住民にとって大きな節目に違いない。しかし、居住範囲はごく一部に限られ、生活に必要な環境の整備もこれからという段階だ。長い年月を要しながら、まだ本格的な復興へのスタート地点に立ったに過ぎない。政府は原発事故の甚大な被害を改めて認識した上で、引き続き被災地の復興に全力を挙げる責任がある。
 双葉町には第1原発の5、6号機が立地し、事故後は埼玉県への集団避難と役場移転という異例の対応を迫られた。13年6月に役場をいわき市に移転させていたが、ようやく町内に戻った。
 居住が可能になったのは、JR双葉駅周辺などかつての中心部5・55平方キロと、企業誘致拠点などが設けられた町の北東部2・2平方キロ。町は、30年ごろの居住人口を事故前の3割弱に当たる2千人に回復させる目標を掲げている。
 だが、復興への課題は山積している。居住可能な範囲は町面積の約15%に過ぎない。国は、残された区域で帰還希望者の自宅周辺などを個別に除染する方針だが、具体的な道筋はまだ見えない。
 帰還に向けた準備宿泊に参加したのも延べ52世帯85人だけだった。昨年の住民意向調査では、避難が長期に及んだ影響もあって帰還を希望した世帯は11%にとどまった。
 町内に役場や駐在所が戻り、生活を支える最低限の基盤は整いつつあるとはいえ、医療機関や商業施設は不足し、町立の小中学校もいわき市に移転したままという状況だ。
 どこまで都市機能を再整備するかは、帰還を考える住民にとって重要な判断材料になる。現実的な予算の中、帰還住民の推移や要望をにらみながら、地道に地域のコンセンサスを形成していく必要があろう。
 これらの問題は双葉町に限らず、被災地に広く共通する課題といってよい。さらに、東電は来春以降、第1原発の溶けた核燃料(デブリ)の冷却などでたまり続ける「処理水」の海洋放出を始める計画だ。新たな風評被害も懸念される。被災地の住民の重荷をどう軽減するのか、国の責任は極めて重い。
 原発事故からの復興が道半ばであるにもかかわらず、岸田文雄首相は突如「原発回帰」の姿勢を鮮明にした。事故後、政府が掲げてきた原発への「依存度低減」から大きな政策転換となる。次世代型原発の検討は長期の原発依存につながりかねず、最長60年とした運転期間の延長は安全性への懸念を膨らませよう。
 復興は徐々に進んでいるとはいえ、被災地にはいまも事故の影響が色濃く残る。福島の今を見つめ、原発事故の教訓を問い続けなければならない。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月