2022.08.25 00:04
【K+】vol.188(2022年8月25日発行)
K+ vol.188
2022年8月25日(木) 発行
CONTENTS
・はじまりエッセイ letter190 中西なちお
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第三十五回
・特集 溶けあう空間|◎カフェ&ギャラリーとさこや
・フランスからの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉35
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.62|マスクメロン@香南市
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.190 谷吉勇太
・Information
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・+BOOK REVIEW
・今月のプレゼント
河上展儀=表紙写真
特集
溶けあう空間
カフェ&ギャラリーとさこや
仙頭杏美=取材 河上展儀=写真
街の喧騒(けんそう)を忘れ、異国情緒が味わえる店。
多様な物が集まる場から新たな発見を。
准子さんのホームページで紹介したことをきっかけに仲良くなった乃亜建築設計事務所が設計。非日常を感じられるようにカフェはあえて奥に
異文化が融合する場所
今年3月、県庁前電停の北側にオープンしたカフェ&ギャラリーとさこや。街中にありながら、そのにぎやかさを忘れさせてくれるような場所でした。
「トンネルの先は、別世界」。そんなコンセプトで作られた店は、扉を開けると、店主の山北准子さんがセレクトした高知の生産者さんが作る食品や生活雑貨などが目に入ります。その奥に現れるカフェ「CASCINA IL CHICCO(カシーナ イル キッコ)」では、イタリア人のピレッダ・シモーネさんと妻・真由美さんによるイタリアの家庭料理が味わえます。フォカッチャ、パニーノ、パンナコッタなど、シモーネさんが子どもの頃から食べてきた味を、高知産の旬の無農薬野菜など、厳選した食材で作っています。
現実は扉の外側。カフェでのひととき、忙しさから離れ、イタリアの田舎町にいるような気分に浸って。「文化が混ざり合うところに、面白いことが生まれると思うんです」と話す准子さん。確かに、高知の、日本の、世界の物や、高知の食材で作るイタリア料理など、さまざまな物が溶け合うように存在しています。ここで混ざる異文化に触れると、日々への新しい発見があるかもしれません。
壁に飾られているイタリアの風景写真。シモーネさんの故郷の写真も
心のこもった物を集めて
大阪出身の准子さんは、2002(平成14)年に夫・政行さんの転勤で高知へ。趣味のドライブで県内を巡るうち、高知の自然や人、物作りの魅力を知ります。やがて高知のいい物を全国に発信するネットショップ「とさこや」をスタート。「まだ個人が気軽にネット通販しづらかった時代でしたが、須崎の木工メーカー土佐龍の社長さんが背中を押してくれました。実績がなくても気持ちを応援してくださり、ありがたかったです」。その後、政行さんが独立してパソコン教室を開業し、ネットショップは2人で得意分野を担当しながら運営してきたそう。
それから約18年、新型コロナウイルスの影響はパソコン教室に。密にならない建物を探し、県庁前電車通りへの移転を決め、そこに新しいコンセプトで「とさこや」の実店舗を併設したのです。
選べるフォカッチャと、前菜の盛り合わせ、季節の野菜のスープ付きのランチセット。それぞれテイクアウトOK。前菜を食卓のおかずにも
イタリア系スリランカ人が始めたフェアトレード雑貨「BAREFOOT」。「スリランカの鮮やかな色に、イタリアの配色センスがミックスされているのが魅力」と准子さん
須崎市の家具工房・刻屋の品。店内のテーブルや椅子も刻屋のオーダーメード品
高知の人への恩返し
「高知の風土や人柄が好きで、故郷のように思っています。この店を地域の人の憩いの場にして、高知の人への恩返しができたら」と准子さんは言います。「おなかも心も満たしてくれるピレッダ夫妻のカフェを要に、長らくネットショップでお世話になってきた土佐龍や家具工房の刻屋、染織工房はた舎の品などに加え、高知のハンドメード作家の作品、高知の生産者が作るジャムや鰹節、自然食品などを集めました」
選ぶ基準は、気持ちが明るくなる物や、生活に潤いを加えてくれる体に優しい物。「まだ知られていない高知の物や、高知でなかなか出合えない物を紹介したいです。海で一つにつながる世界を旅しているような気持ちになってもらえたら。さまざまな個性が響き合う、おおらかな場所にしたいです」
プロフィール
右=山北准子さん
2004(平成16)年から「とさこや」の屋号で、高知の物作りをネットで紹介。今年実店舗を高知市内にオープン。大阪府出身。46歳
左=ピレッダ・シモーネさん
2017(平成29)年に高知へ来て「CASCINA IL CHICCO」を立ち上げる。今年カフェを「とさこや」に開店。イタリア出身。36歳
中=ピレッダ・真由美さん
大阪で服飾デザイナーとして働いた後、シモーネさんと共に高知に帰郷。店では主に、スープとお菓子作りを担当。南国市出身。38歳
自然に近い暮らしを
カフェを営むピレッダさん夫婦は、以前は大阪で暮らしていました。南国市出身の真由美さんは、服飾デザイナーとして働き、シモーネさんはイタリア語講師をしていたそうです。真由美さんが病気を患い、その克服後に出会って結婚した2人。食生活を見直し、自然農や有機野菜などに関心を深め、自然に近い暮らしをしようと17(同29)年に高知に帰郷。自給用の野菜を育てながら、「CASCINA IL CHICCO」の屋号で高知オーガニックマーケットに出店し、パンや焼き菓子などを販売してきました。
「祖先が食べてきたような食事を大切にしながら、多様性のある農的な暮らし」をすることを2人は目指しています。カフェを開きたいと漠然と考えていたところ准子さんと知り合い、自分たちの夢への一歩として「とさこや」への出店を決めました。
山地酪農牛乳を使ったパンナコッタやカフェラテ、古代小麦と平飼い卵を使った日替わりケーキは、ぜひデザートに
イタリアの家庭料理には、よく隠し味に塩を入れるそう。フォカッチャやケーキは、天日塩がアクセントに
イタリアの家庭料理の味
イタリア北西部ピエモンテ出身のシモーネさん。「イタリアでは休日に家族で集まって料理を楽しむ習慣があるので、愛情を込めて料理を作ります。素朴だけど味がしっかりしているのが特長。今日の前菜のズッキーニのカルピオーネや、モモのケーキは母がよく作ってくれた味です」と、思い出の料理を振る舞います。次女が小麦アレルギーだったことで、古代小麦を知り、料理に使うように。「アレルギーのある人でも食べられる物が増えるよう体に優しい食材を選んでいます」と真由美さん。店を持ったことで街のお客さんが、気軽に来店できるようになったことが、今の2人の喜びです。
扉を開けば、迎えてくれるピレッダさん夫婦と准子さん。日常を忘れて癒やされてほしいと願いながら、心地よい空間を準備して。
シモーネさんの父の出身地、サルデーニャ島の伝統的なパスタ・マッロレッドゥス。メニュー化を目指して試作中
◎カフェ&ギャラリーとさこや
問/088-821-7606
営/11:30~18:00
休/土・日・月(不定休あり)
HP/https://tosacoya.com
最新情報はInstagram
とさこや @tosacoya
CASCINA IL CHICCO @cascina_il_chicco
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