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高知新聞PLUSの活用法

2022.07.28 00:04

【K+】vol.187(2022年7月28日発行)

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K+ vol.187 
2022年7月28日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter189 中西なちお
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.189 山岡茜
・日々、雑感 ある日 vol.21
・特集 寄り添う靴|kino shoe works
・フランスからの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉34
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.61|ミョウガ@高知市
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第三十四回
・Information
・+BOOK REVIEW
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真

特集
寄り添う靴
kino shoe works

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真

宿毛で暮らす
靴職人の夫婦が作る、
長く使い込むほど
味が出る革靴のこと。


子育て中の女性が履きやすい靴をと、最初に作ったスリッポン

子育て中の女性が履きやすい靴をと、最初に作ったスリッポン




高知西端の街で靴作りを

 一人一人の足の形に合わせ、靴職人が作るオーダーメードの革靴。手入れをするほど長持ちし、修理しながら長く履けて。年月を重ねるにつれて味わいが増し、愛着が深まる、毎日履きたい大好きな靴。そんな一足と出合えたら、なんて幸せでしょう。
 宿毛市にある小さな靴メーカー「kino shoe works」。一見、カフェのような、雑貨店のようにも見える工房内で、宿毛市出身の木下藤也さんと、千葉県出身の妻・恵さんが黙々と靴を作っていました。大切にするのは、シンプルで飽きがこないオーソドックスなデザイン。靴の製作は、セミオーダーが中心。希望の靴の形と、革の種類や色、ソールなどを選んで、自分だけの一足に仕上げてくれます。
 以前は、東京の同じ革靴メーカーで働き、千葉に住んでいた木下さん夫婦。「自然豊かな場所で子育てしたい」「いつか自分の手で靴を作りたい」と思っていた藤也さんは、高知に戻り、2014(平成26)年に工房を立ち上げます。「受注生産なら、工房の場所はどこでも大丈夫。地元でもできると思いました」。自宅の横に工房がある静かな環境の中、自分たちで作れる数だけの注文を受け、夫婦で靴作りに励みます。




経年変化する革の味わい

 叔父が営む婦人靴メーカーに母が勤め、靴が身近だったと話す藤也さん。製造業は大変と感じ、別の道にと大学は工学部へ。機械設計を仕事にしようと就職活動するも、違和感を覚え、靴を作りたいと考えるようになります。「自分が作った物が長く残る仕事をしたくて」。その後、東京の手製靴の専門学校で学び、革靴メーカーに就職。そこで、恵さんと出会います。恵さんは、以前はOLでしたが、次第に手に職を付けたいという思いが。靴のパタンナーを目指して専門学校で学び、就職。同じ会社で2人は靴作りの経験を積みます。
 高知に戻る大きなきっかけは、東日本大震災でした。恵さんは育児に専念し、藤也さんは、海外の工場の生産管理を担当し、海外出張が増えていた頃でしたが、帰郷して自分たちで靴を作ることを決心。試作を重ねた2年後、「kino shoe works」を立ち上げました。愛媛県や高知市など県内外のカフェなどで靴の受注会を開き、販路を広げてきました。
 自分たちが履きたいと思える靴がデザインの基本。初めて作った靴は、スリッポンでした。「子どもが小さかったので、女性がすぐ履けて、しっかり歩ける靴を作りたくて」。最初は3種類の靴から注文を受け始め、今ではラインアップもいろいろに。
 「平面が立体になることに靴作りの面白さを感じています。履く人によってや、経年変化で表情が変わるのも革の魅力だなと」と藤也さん。オーダーがあれば、一定期間、癖や履き心地など持ち主を思いながら作るため、一足一足に思い入れができると話します。


木型を基にしたベースに靴のデザインを描き、透明のシートを貼ってデザインを写す。それを紙に複写して型紙を製作

木型を基にしたベースに靴のデザインを描き、透明のシートを貼ってデザインを写す。それを紙に複写して型紙を製作



靴の表面は牛革、中面は豚や馬の革を使うのが一般的。靴になった時の表情を考えながら革を選び、仕入れるそう

靴の表面は牛革、中面は豚や馬の革を使うのが一般的。靴になった時の表情を考えながら革を選び、仕入れるそう


革を木型になじませる釣り込み作業。ずれるとデザインが崩れるため慎重に。その後、爪先とかかとに芯を入れ、1週間寝かして

革を木型になじませる釣り込み作業。ずれるとデザインが崩れるため慎重に。その後、爪先とかかとに芯を入れ、1週間寝かして


コーヒー好きの藤也さん。自家焙煎(ばいせん)した豆をひき、毎朝コーヒーを飲んでから仕事を始めるのが日課だそう

コーヒー好きの藤也さん。自家焙煎(ばいせん)した豆をひき、毎朝コーヒーを飲んでから仕事を始めるのが日課だそう



プロフィール
木下藤也さん
東京のエスペランサ靴学院に通った後、都内革靴メーカーに就職し、靴作り全般を経験。東日本大震災を機に地元に戻り、2014(平成26)年「kino shoe works」を立ち上げる。宿毛市出身。43歳

木下恵さん
藤也さんと同じ専門学校に通い、同じ革靴メーカーに就職。藤也さんと結婚後、高知へ。役割分担しながら夫婦で靴を作りつつ、食と自然が豊かな高知の暮らしを満喫。千葉県出身。45歳



湧き続ける職人の探究心

 作業工程で最も重要なのが、木型に足の形を合わせる作業だそう。足を計測した後、その人の足の形に近い木型を選び、革を張ってぴったりになるよう調整し、型紙を製作。形を取って革を裁断し、ミシンで縫って完成へと工程を進めます。靴底の取り付けは、手縫いで。「均一にならない方が、手作り感があって好きです」と藤也さん。
 やればやるほど深みが増すのが職人の世界。「年々、こだわりが出て、作る時間が長くなっている」と藤也さんは笑います。次は、ハンドソーン・ウェルテッド製法で靴を作ってみたいとのこと。さらに製作に時間を要しますが、より靴のラインが美しく仕上がります。常に完成後の見た目や作り方を見直し、改良を重ねます。「より良い靴を」と、職人としての探究心は湧き続けるのです。


靴底を取り付ける底付け作業は、一針一針手縫いで

靴底を取り付ける底付け作業は、一針一針手縫いで


木型職人が作ったプラスチックの木型。これをベースに革を張り、履く人の足の形に調整しながら作業を進める

木型職人が作ったプラスチックの木型。これをベースに革を張り、履く人の足の形に調整しながら作業を進める






直しながら長く履く

 夏の人気商品の一つ「zori」。最初、中敷きに中国産の畳を使うも長持ちせず、革に変更した商品ですが、今夏、高知県産の畳を中敷きに使ったリニューアル版の販売を始めました。「新型コロナウイルスの影響で、革素材が手に入らず大変でした。身近な素材で靴を作ることも考えていきたいです」。近所のおばあさんから竹皮草履の作り方を学んでいる恵さん。持続できる靴作りの模索も始めています。
 そんな2人の日々の喜び。それは、使い込まれた靴が修理のために帰ってきた時だと言います。「送り出した時と全然違っていて。たくさん履いてくれたんだなと感動します」。その靴をいとおしく感じながら、直してまた持ち主の元へ。長く人生を共に歩いてくれる靴と同じように、靴職人もまた持ち主の人生に寄り添います。


全て革製のサンダル「zori」。中敷きに高知県産の畳を使ったリニューアル版も販売中

全て革製のサンダル「zori」。中敷きに高知県産の畳を使ったリニューアル版も販売中


国道沿いにありながら自然に囲まれた工房。自宅の隣に新たな作業場と靴の展示室を作る準備中だそう

国道沿いにありながら自然に囲まれた工房。自宅の隣に新たな作業場と靴の展示室を作る準備中だそう




◎kino shoe works
宿毛市押ノ川1476
問/090-4618-7100
E-mail/info@kinoshoeworks.com
営/9:00〜18:00
休/不定休
最新情報は、Instagram/@fujiya_kinoshita

掲載した内容は発行日現在の情報です。予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

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