2024年 05月08日(水)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2022.07.21 08:00

【安倍氏の国葬】国民の納得へ説明足りぬ

SHARE

 参院選の街頭演説中に銃撃され死去した安倍晋三元首相について、岸田文雄首相が実施を表明した国葬の是非を巡る議論が噴出している。
 政府は9月27日に東京・日本武道館で行う方向で調整を進め、今週中にも閣議決定するようだ。費用は全額、国の拠出になる。
 凶弾に斃(たお)れた安倍氏を悼む声が多く寄せられているのは確かだ。一方で、野党からは反対や丁寧な説明を求める意見が出ている。また、性急な決定には違和感を覚えている国民も少なくないのではないか。
 国葬の対象者などを規定した戦前の「国葬令」は、政教分離を定めた現行憲法制定で失効した。戦後は、対象者や実施要領を明文化した法令はない。
 首相経験者の国葬は1967年、本県選出の吉田茂元首相以来で極めて異例の対応だ。大平正芳氏や中曽根康弘氏の葬儀は内閣と自民党が費用を分担する合同葬だった。
 なぜ安倍氏は国葬なのか。法の根拠がなく、国民全体の合意や納得感も十分でないとすれば、岸田首相はなお説明を尽くす必要がある。
 首相は先週の記者会見で、国葬実施の理由に歴代最長政権を担ったことや経済再生、日米外交などの「実績」を挙げた。
 しかし、安倍政権の実績評価には異論も根強い。経済政策「アベノミクス」をはじめ、その功罪はまだ評価が定まっていないものも多く、事件とは切り分けて冷静に検証されなければならない。
 首相は、安倍氏の国葬を営むことを通じ「わが国は暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を示す」とも強調した。
 むろん、暴力に屈しない決意に異論はない。ただ、長期にわたった安倍政権の下では、その守るべき民主主義の根幹を揺るがす事態が続いてきたことも忘れてはなるまい。
 官僚の忖度(そんたく)がはびこり始め、公文書の廃棄や改ざんが常態化。森友学園や「桜を見る会」などを巡る疑惑で真相解明を困難にしている。公正な行政が行われたかどうか、後世の検証を妨げるのは民主主義の基盤を損なう行為にほかならない。
 ほかにも憲法に基づく野党の臨時国会召集要求の長期間放置や、118回の「虚偽答弁」など、国会軽視の姿勢は当欄も再三、指摘してきた。国葬による安倍氏の「神格化」で、こうした負の側面にふたをすることがあってはならない。
 自民党の茂木敏充幹事長は、国葬に反対する一部野党に対し「国民から、いかがなものかとの指摘があるとは認識していない。国民の声とはかなりずれている」と述べた。
 果たしてそうだろうか。国葬に理解を示す野党にも、「賛成する人ばかりではない」との声がある。聞く耳を持たず、異論を聞こうとしないのであれば、ここにも巨大与党のおごりが表れてはいないか。
 野党は国会での閉会中審査の開催を求めている。岸田首相には国葬の意義や基準を丁寧に説明し、国民の納得を得る責任がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月