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2022.07.21 08:39

二つの大病抱え私設図書館開設 高知県いの町の河本さん「交流生まれる場に」

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「この私設図書館が安らぎの場になればうれしい」と語る河本真由美さん(写真はいずれもいの町八田)

「この私設図書館が安らぎの場になればうれしい」と語る河本真由美さん(写真はいずれもいの町八田)

 高知県吾川郡いの町八田に小さな小さな私設図書館がある。左目失明とがんという二つの大病を経験した河本真由美さん(52)=天王南5丁目=が〝館長〟。「もう片方の目も見えなくなるかもしれないし、がんが再発するかもしれない。それなら、自分がやりたいことをやろう」。図書館は、いろんな人が集う場をつくりたいという思いが凝縮した場所だ。

 薬剤師だった2019年9月のある日。仕事中、左目奥に激痛が走った。ほんの数秒だったため気にもかけなかったが、翌朝、突然視野が欠ける症状が出た。抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎という難病だった。1カ月後、左目は見えなくなった。仕事も辞めた。

 20年には乳がんが発覚。リンパに転移しており、3週間に1度の抗がん剤治療を8度行った。食欲、味覚がなくなり、髪も抜けた。そんな副作用の苦痛に耐え、翌年、がんを摘出した。

 「現状を受け止めるだけで精いっぱいでした。主人も娘もいる。ただただ病気に負けてはいけない、と」

 そんなとき、病院の待合室のテレビに目がとまった。兵庫県内にある私設図書館の紹介だった。本を介して、暮らしや心のケアなどを提供している施設だった。

 「これをやりたい!と直感しました」と河本さん。働いていた頃は、がんの末期患者に薬を届け、たわいもない話をしたり聞いたりして励ましていた。「そのときの感覚と、私設図書館の取り組みが重なりました」

図書館横の実家では子どもらがくつろげるスペースも

図書館横の実家では子どもらがくつろげるスペースも

 実家の庭に6畳一間のプレハブ図書館を建てた。小説、マンガ、エッセーなど約1100冊は知人ら約20人からの寄贈。実家には勉強やおしゃべりができるスペースも構えた。火日曜を除く午前11時~午後4時(臨時休館あり)に開館する。

 何度か図書館に足を運んだ松島智子さん(50)=高知市=は「落ち着きがあってリラックスできるすてきな空間です」。そして、「闘病しながら図書館を運営している。そのパワーはすごい。私が同じ立場ならまねできないと思います」と河本さんの行動力に驚きを隠さない。

 図書館の名は「つむぎ」。「本を通じて交流が生まれる。本を読まなくても誰かの居場所になれる。人と人を紡いで、縁が生まれればうれしい」。河本さんのそんな願いが込められている。

 「人生で予想だにしないことが起きました。これからも起きるかもしれない。でも先のことを考えるより、充実している今を大切に生きたい」

 山に囲まれ、ゆったりとした時間が流れる小さな小さな私設図書館。河本〝館長〟の思いを乗せて、きょうもオープンする。「人同士が助け合い、励まし合える空間にすることが、今の私の夢なんです」(谷川剛章)

本棚オーナー募集

 私設図書館「つむぎ」は本棚オーナーを募集している。1区画(幅30センチ、奥行き20センチ、高さ35センチ)を月2千円で借り、好きな本を並べることができる。集まった資金は運営費に充てる。河本さんは「本で交流が生まれればうれしい」と呼び掛けている。問い合わせは河本さん(080・5460・0228)へ。

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