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2022.07.15 08:00

【東電株主訴訟】安全重視を迫る巨額賠償

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 原発の過酷事故は避けられた可能性があったが、防げなかったのは原子力事業者としての安全意識が欠けていたためだ。向けられた批判は極めて厳しい。この指摘を真摯(しんし)に受け止めなければならない。
 東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁は東電旧経営陣4人に計13兆円余りの賠償支払いを命じた。旧経営陣個人の責任を認める司法判断は初めてだ。
 政府は2002年に地震予測「長期評価」を公表した。これに基づき東電子会社は08年に、福島第1原発に最大15・7メートルの津波が到達すると試算していた。
 判決は、原発の主要建屋や重要機器室に浸水対策工事を実施していれば、津波による重大事故を避けられた可能性が十分にあったと、対策と事故との因果関係に言及する。
 このため重大事故が生じないよう最低限の津波対策を速やかに指示すべきだったが、取締役としての注意義務を怠ったと認定した。事故前の対応は「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」と強い言葉で批判されたことは重い。
 長期評価の信頼性をどう見るかは重要な争点だった。裁判長は、地震や津波の専門家による適切な議論を経て承認されており、相応の科学的信頼性が認められると位置付けた。完全な正確性は期待できないにしても、科学的な知見に基づいて予測される危険性を排除するのは当然であり、この判断は受け入れやすい。
 これに対し、原子力部門ナンバー2の副社長は信頼性や成熟性を不明と評価していた。土木学会に検討を委託してさらに知見を集める意向だったようで、それ自体はいいが、この間の津波対策を怠ったことを判決は「著しく不合理で許されない」と痛烈に批判している。
 安全対策と向き合う東電の基本的な姿勢にも、判決は厳しい視線を向ける。規制当局だった旧原子力安全・保安院に、東電は自ら得ている情報を明らかにしなかったことを取り上げる。そうした対応は、いかに現状維持できるか、有識者の意見のうち都合の悪い部分を無視ないし顕在化しないように腐心していたと指摘されるほどだ。
 最高裁は6月の民事訴訟判決で、国の責任を認めない初の統一判断を示している。国の権限で防潮堤を設置していても事故は防げなかったとした。津波予見性の有無は判断を示さなかった。
 旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判は、津波を具体的には予見できず事故は防げなかったと、一審は無罪となり控訴審に入っている。東電内部の責任の所在を明らかにする機会となる。
 エネルギーの安定的な供給が課題となり、温暖化ガス排出量の削減も絡みながら、原発再稼働の動きが出ている。岸田文雄首相は冬に向けて最大9基を稼働させる考えを示した。事故の教訓は重い。安全基準を高めるだけでは十分とは言えないことを国や事業者はしっかりと認識する必要がある。

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