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2022.07.13 05:00

【政府の地方対策】一極集中是正へ道筋示せ

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 人口減少とそれによる疲弊は、地方が共通して直面する課題だ。だが参院選の論戦では、先行する物価高対策や安全保障問題の陰に隠れて埋没した感もあった。状況は確実に悪化している。岸田政権に実効性のある地方対策を求める。
 高知県の今年4月1日時点の人口は68万人を割り、大正時代並みの水準になった。県人口は1985年度から36年連続で減り、2021年度の1年間で約8500人減った。
 人が減った地域は活力を失い、経済格差から若者が都市部に流出する悪循環もたどる。コミュニティーは衰退し、公共交通や学校などの社会インフラの維持が難しくなる。
 中山間地域の状況は特に深刻だ。県内の小規模集落を対象に県が21年度に行った実態調査では、約4割が「10年後の集落活動を維持できない」と回答。地域の世話役の後継者は3割余りが「いない」とした。いずれも10年前に行った調査から数字が跳ね上がった。
 一方で、東京への一極集中の流れはなお続いている。首都直下型地震が起こった際の危機管理の観点からも、人口偏在の是正は急務だ。
 人口問題への対応は、安倍政権が14年、「地方創生」を掲げて本格化した。地方移転する企業への税制優遇、中央省庁の移転、自治体による総合戦略の策定などを通じ、東京圏の転出・転入を20年に均衡させる目標を示した。
 しかし、省庁移転は文化庁の京都移転にとどまり、企業の移転も大きな流れにならなかった。転出転入の均衡目標も24年度に先送りされ、「異次元の政策」と触れ込んだほどの成果は上がっていない。
 地方側も総合戦略作りに時間と労力を費やし、新たな活性化策も展開した。ただ、インパクトのある施策は限られ、交付金を通じた国の財政支援も中途半端だった。
 一連の取り組みを通じて露呈したのは、日本全体の人口が減る中では単なる移住者の奪い合いになりかねない実態だ。取り組んだ地方には、徒労感も漂う。国が施策の方向性を決めて事業を選ぶという「上意下達」の手法も課題になった。
 次の段階には、これらを総括した上で進んでいく必要がある。
 岸田政権は「デジタル田園都市国家構想」の推進を打ち出す。通信インフラの整備で「距離の壁」を取り払えれば、地方で働ける可能性が広がり、教育、医療などのサービスを受けやすくなるのは確かだ。
 だが発想に新味があるわけではなく、「手段」にすぎない。都市と地方の格差を埋める技術的な環境は進むかもしれないが、その先に目指す国家像が見えず、骨太感に欠ける。もう一歩踏み込むべきだ。
 「一極集中の是正」は政策効果が上がりづらい面はある。都会の賃金や仕事、生活に魅力を感じがちな若者の価値観もあるからだ。ただ、新型コロナウイルス禍で、その価値観に変化もうかがえる。この機会に、分散型国家の理念を掲げ、実現の道筋を示していくべきだ。

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