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2022.07.03 08:00

【五輪最終報告】「負」も総括すべきだった

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 負の側面に目を向けてこそ総括は意味を持つ。自画自賛ばかりでは、本当のレガシー(遺産)もかすんで見えてしまうのではないか。
 東京五輪・パラリンピックの組織委員会が公式報告書をまとめた。約450ページにも上るそれは、主催者側が行ったこと、できたことは詳述するが、できなかったこと、その反省や検証には踏み込まない。教訓を後世に生かす上で、物足りない内容だ。
 報告書は、新型コロナウイルス下で開かれた前例のない大会について「安心安全を最優先に、大会を引き継ぐ責務を果たした」「スポーツの揺るぎない価値を示した」「東京、日本だからこそ開催できたとの評価を受けた」などと自賛を重ねた。
 共同通信の世論調査では、開催前の昨年5月には大会中止を求める声が60%を占めたが、閉幕後の8月には63%が「開催してよかった」とした。大会の意義は決して小さくはなかっただろうし、国民に肯定的な印象が残っているのも事実だ。
 一方で大会は無観客で盛り上がりに欠け、経済効果は半減し、人的な交流もできなかった。意義が薄れ、開催反対論が浮上したことなどには「批判的な意見も含め、社会を巻き込んだ議論が行われた。(中略)絶対の正解はなく、対話を通じて一つずつ乗り越えていくしかない」と抽象的な言い回しにとどめる。
 新型コロナのリスクは「大会の開催を契機とした感染拡大は認められなかった」と明言した。国民の受け止めは果たしてそうだろうか。
 頻発したトラブルや不祥事に言及はしたが、正面から向き合わなかった。典型例が、森喜朗氏の会長辞任につながった女性蔑視発言の扱いで、「ジェンダー平等や多様性と調和の重要さを認識する契機となった」と肯定的にすり替えたのには驚く。この発言でボランティアや聖火ランナーの辞退が相次いだことなども触れられなかった。
 肯定的な面ばかりを押し出す姿勢は、開催経費の報告も同様だ。
 組織委は、経費を最終的に1兆4238億円と公表した。初めて全体像を示した2016年の1兆5千億円の枠内に収め、「簡素化により経費削減に努めた」とする。収支決算上の赤字は回避し、簡素化に一定の成果を出したのは確かだろう。
 しかし招致段階の13年に東京都が公表した開催経費7340億円からすれば、2倍に膨らんでいる。この額は、国際オリンピック委員会指定の項目のみの数字だったというが、「そのようなものだ」と納税者は割り切れるだろうか。
 また、暑さ対策やバリアフリー化などでの東京都、国の負担分を加えれば、実質的な経費は2兆円以上とされる。投じられた多額の公費に見合ったレガシーが残ったのか。きちんと情報が出てこなければ、東京大会の意義、そして札幌市が進める30年冬季五輪の招致活動を、国民は評価できない。
 組織委は先月末で解散したが、報告書に載らなかった背景や出来事を問い直し続ける必要がある。

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