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2022.06.14 08:00

【改正刑法成立】「表現の自由」守る配慮を

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 インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策で、侮辱罪を厳罰化する改正刑法が成立した。現行の懲役や罰金刑の対象とし、近く施行される見通しだ。運用には、憲法が保障する「表現の自由」との兼ね合いに十分な配慮を要する。
 ネット上には、匿名をいいことに悪質な投稿があふれ、その被害も相次いでいる。2020年5月には、テレビ出演していた女子プロレスラーの木村花さんが中傷被害に遭って亡くなった。
 その後も、ネット上で無関係の事件に関してデマを流されたり、いじめを苦にして自殺したりする、重大な人権侵害がなくならない。SNS(交流サイト)の普及で、言葉の暴力がより身近になったのは間違いあるまい。
 侮辱罪は1907年の刑法制定時から大幅な見直しはなく、むろんネット社会も想定していない。昨年4月には悪質投稿者を特定する手続きを簡素化した改正プロバイダー責任制限法も成立したが、対策の強化を求める機運が高まっていた。
 現行、侮辱罪の法定刑は「30日未満の拘留か1万円未満の科料」だが、改正により「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が加わる。公訴時効も1年から3年に延長される。
 ネットも社会の一部であり、言動に責任が伴うのは当然だ。ただ、誰しもが被害者にも加害者にもなり得るのがネットといってよい。厳罰化による副作用を十分に認識しておく必要がある。
 例えば、まっとうな批判や反論と誹謗中傷の違いは何なのか。恣意(しい)的な形で責任追及がなされれば、活発な議論は難しくなる。より広範囲で、気軽に参加できるネット上の交流の利点が失われかねない。
 改正法には、表現の自由が不当に制約されていないか、施行3年後に検証するとした付則が設けられた。憲法上の権利を尊重しつつ、言葉の暴力から人権を守る。そのどちらが損なわれても、民主主義にとって重大な問題だ。表現の自由を享受する一人一人が、責任を意識した利用の仕方を心掛ける必要がある。
 また今回の改正で、刑罰の懲役と禁錮を廃止し、「拘禁刑」に一本化される。
 受刑者の再犯防止に向けた処遇改革の一環で、指導や教育に力点を置く。近年、刑法犯の人数は減少傾向にあるものの、再犯の割合が半数近くに上ることが背景にある。
 現行法の懲役刑では、罪を犯した「報い」との位置付けから、木工や洋裁などの刑務作業が義務とされてきた。改正で義務ではなくなり、より柔軟に更生プログラムのほか、高齢受刑者のリハビリや若年者の学力向上などに時間を割けるようにするという。
 更生を重視した方向性に異論はない。指導や教育の効果を上げるには刑事施設側の十分な人員体制とノウハウの充実も課題となろう。個々の受刑者の状況を把握した上で、きめ細やかな指導が求められる。

高知のニュース 社説

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