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2022.06.09 08:00

【骨太方針】首相の意思が伝わらない

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 成長を重視して分配は棚上げするようでは失望を招くだけだ。施策を打ち出しても財源が分からず、財政の緩みが加速しないか気になる。
 岸田政権下で初めての経済財政運営の指針「骨太方針」と、その中核となる経済政策「新しい資本主義」実行計画は、成長戦略の柱に人材や科学技術などへの重点投資を掲げた。解決すべき課題に官民が協力して向き合うことは重要だ。効果を高める具体策を期待したい。
 一方、分配政策を推し進める強い意思は感じられない。岸田文雄首相は昨秋の所信表明演説で、新自由主義的な政策により生じた富める人と富まざる人との深刻な分断に言及している。その解消に取り組む意欲を示し、「成長と分配の好循環」の必要性を訴えていた。
 それがふたを開けてみれば、格差是正に向けた対策は乏しい。かつて打ち出した金融所得課税強化は見送った。以前にも株価の下落傾向を受けて軌道修正した経緯がある。
 そうかと思えば家計に金融商品への投資を促し、「資産所得倍増プラン」を掲げた。年末に具体化するようだが、投資喚起には安倍政権の経済政策「アベノミクス」路線の継承が指摘される状況だ。
 もちろん、成長を目指すことは重要で、成長の果実をしっかりと分配することで初めて次の成長が実現するとも所信で述べている。ならば分配をどう形にするのかを示す必要があるが、これでは分配に踏み込む姿勢に疑問符が付く。
 防衛力を巡っては、5年以内に抜本的に強化すると明記した。首相は5月の日米首脳会談で、防衛費の「相当な増額」を約束している。北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国防費の目標を国内総生産(GDP)比で2%以上としていることを引き合いに、増額を見込む。
 日本の防衛費は従来、1%程度で推移し、2022年度当初予算は5兆4千億円になった。安全保障環境が厳しくなる中で、必要な装備は充実させなければならない。だが、社会保障費の伸びなどに対応する財源も欠かせない。そもそも、防衛の在り方を巡る議論は深まっていない。拙速な判断は禁物だ。
 防衛費にとどまらず財政支出を拡大させる方向が示される一方で、その裏付けとなる財源には触れたがらない。参院選をにらめば、負担の議論は避けたいのが本音だろう。野党側にも、そうした姿勢を追及するだけの迫力はうかがえない。
 国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する財政健全化目標もあいまいになった。黒字化目標が政策の選択肢を狭めるとの懸念は分かるが、だからといって財源は無尽蔵なわけではない。十分な検討と政策効果の検証を重ねていく必要がある。
 首相は財政健全化の旗は降ろさない姿勢を継続する一方、自民党内の積極財政派に配慮をしたようだ。首相の「聞く力」が党内の混乱回避に向けられるだけでは、将来の負担を大きくしてしまう。

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