2022.06.05 08:37
「焦がす」「いぶす」「あぶる」 たたきの“流儀” 店ごとに 久礼(中土佐町)―ちいきのおと(73)
カツオの町 こだわり光る
初ガツオシーズンたけなわの高岡郡中土佐町久礼。鮮魚店や飲食店が集まる久礼大正町市場には、平日もにぎわいが戻りつつある。人々のお目当ては、やっぱりカツオのたたき。と、一口に言っても、たたきの“流儀”は、実は店それぞれ。「カツオの町」を掲げる同町民をもうならせる、店主こだわりの一品をご賞味あれ。
たたき作りの王道と言えば、わら焼き。同市場事務局によると、久礼のわら焼きは大まかに「焦がし」と「いぶし」の二つに分かれるという。
市場でいつも人だかりが絶えない田中鮮魚店は、先代から受け継いだ「焦がし」。社長の田中隆博さん(61)は、「焼き手で味が変わってはいけない」と自ら日に150~200本のさくを焼き続け、舌の肥えた常連客を満足させてきた。
たたきを焼く田中隆博さん(写真はいずれも中土佐町久礼)
一方、香りが売りの「いぶし」でリピーターをがっちりつかんでいるのが山本鮮魚店。「焼くだけでは香りが弱い」と研究を重ねた店主の山本忠宣さん(52)が、大量のわらで煙を出し、十分にいぶしてから焼く手法を確立させた。
わらを構える山本忠宣さん
さらにひと味違うたたきもある。同市場前の食堂「とみぃの台所」。店を切り盛りする代表の富田明さん(54)は、地元カツオ船で賄い料理を作る「炊(かしき)」から最も腕の立つ一本釣り漁師「舳(へ)乗り」まで務めた元乗組員だ。
バーナーでさくを焼く富田明さん
元カツオ漁師で町商工会長も務めた川島昭代司さん(75)は「塩振り3年、焼き8年」と、たたき作りの難しさを語る。「一昔前は焼き切りと言うて、晴れの場の一品やった。魚屋は、炭俵のわらや枯れた松葉、カヤなど強い火力を求め、節の状態を見て、客の好みを知って焼いていた。奥が深いがよ、たたきは」
焼き方だけでなく、たれや塩、薬味でも、それぞれの店の個性がにじむ。カツオを知り尽くした久礼のプライドを胸に、最高のたたきを追い求めての切磋琢磨(せっさたくま)が、これからも続く。(須崎支局・富尾和方)