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2022.06.03 08:00

【新しい資本主義】「看板倒れ」は否めない

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 岸田文雄首相が掲げる看板政策「新しい資本主義」の実行計画案がまとまった。
 内容は、これまでに手掛けてきた成長戦略の焼き直しが目立ち、当初掲げた「分配重視」の理念は影を潜める。経済政策の流れをダイナミックに転換するような要素は乏しく、「看板倒れ」の印象は否めない。
 「新しい資本主義」は、昨秋の自民党総裁選で岸田首相が打ち出した。大企業、富裕層、都市部に恩恵が偏ったとされるアベノミクス批判を踏まえ、「成長と分配の好循環」とアピール。それは経済政策の軌道修正と受け取られ、「岸田カラー」の象徴にもなった。
 だが、「分配」はかすんだ。
 計画案は、格差拡大や気候変動問題の解決を成長につなげるとし、「人材育成」「新興企業支援」「科学技術」「脱炭素・デジタル化」など4分野の重点化を掲げた。成長分野への投資は必要だろう。ただ、以前からの延長線上であり、そこに新味があるわけではない。
 一方、分配戦略は、最低賃金の引き上げ、介護職や保育士らの処遇改善などを盛り込んだものの、道筋は不透明だ。企業向けの賃上げ税制も掲げたが、企業側は冷ややかな反応を示す。首相が意欲を示していた、富裕層を念頭に置いた金融所得への課税強化は見送られた。
 家計向け対策の「目玉」が欲しかったのか。貯蓄から、株や投資信託への投資への切り替えを促す「資産所得倍増プラン」が打ち上げられたが、唐突感がある。具体的には少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」の制度改革が挙がる。
 「倍増」の聞こえはよいが、即効性は薄く、現役世代は資金を回す余裕にも乏しいとされる。逆に格差拡大を助長しかねない。本来なら、企業がため込んだ利益が働き手に回るインパクトがある施策が期待されたが、見当たらないのが実情だ。
 「分配」がかすんだのは、経済界や市場から支持されなかったからとされる。事実なら、首相の実行力に疑問を投げかけざるを得ない。「新しい資本主義」を、総裁選用に構えたその場しのぎのスローガンと言われても仕方あるまい。
 結果的に計画案は総花的になり、アベノミクスの「3本の矢の枠組みを堅持」との文言も明記された。皮肉にも「聞く力」が存分に発揮された格好となった。
 同時に発表された、経済財政運営の指針「骨太方針」案では、基礎的財政収支を2025年度に黒字化する目標について、「旗をおろさない」としつつ、年限の明記を見送った。財政規律の緩みは明らかで、安倍晋三元首相ら積極財政派の意向が反映されたとされる。
 発表された政府・与党の経済財政運営方針を支持する層もいるだろう。だが、党内力学やリーダーシップの面で、岸田首相の政権運営の不安もさらしたと言える。
 政策的にはアベノミクスの負の側面も残る。改めて目配りが必要だ。

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