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2022.05.27 08:00

【在外国民審査】立法府の怠慢 反省せよ

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 選挙権と並ぶ国民の権利を軽んじてきた姿勢が厳しく指弾された。政府、国会は速やかに制度の見直しを進めなければならない。
 海外に住む日本人が最高裁裁判官の国民審査に投票できないことの違憲性が争われた訴訟で、最高裁大法廷は一審、二審に続き、投票を認めていない現行の国民審査法を「違憲」と判断した。
 在外邦人の投票は2007年から全ての国政選挙でできるようになったが、衆院選の際に行われる国民審査は置き去りにされている。判決では、国民審査を「選挙権と同様に、国民に憲法で保障された権利」と指摘。立法措置を取ることが著しく困難だったとは言えないとした。
 「憲法の番人」とされる最高裁は司法の頂点に位置し、判例は社会的に大きな影響力も持つ。国民審査は、その裁判官たちをチェックする有権者の貴重な権利であり、居住地に関係なく保障されるのは当然だ。「違憲」は裁判官15人全員一致の意見だった。重く受け止めなければならない。
 最高裁は立法府の怠慢も指摘した。反省が求められる。
 在外邦人の国民審査を巡っては、11年にあった同じ趣旨の訴訟で、東京地裁は、認めていないことに「重大な疑義」を指摘していた。05年以降、公職選挙法改正や国民投票法を議論する国会審議で検討する機会もあった。
 にもかかわらず国側は、「審査権は民主主義に直接関わる選挙権とは異なる」と主張。投票用紙の送付や回収など技術的な課題を挙げ、対応してこなかった。最高裁はその「不作為」を認定し、二審では認めていなかった賠償も命じた。
 判決に対して政府、与野党幹部は受け入れる考えをすぐに示した。コメントからは、もともと後ろめたさを抱えていたような印象も抱く。立憲主義に基づく民主主義国家なら、この問題には積極的に対応するのがあるべき姿ではなかったか。
 今後の焦点は、国が挙げていた技術的課題の解消に移る。投票用紙に印刷された裁判官のうち、辞めさせたい人の欄に「×」を書く今の方式では回収が間に合わないとされる。「記名式」への変更やインターネット投票など改善策は浮上しており、工夫を凝らしてもらいたい。
 今回の訴訟は、国民審査の意義を改めて提起したとも言える。
 選挙と並ぶ貴重な機会だが、なじみが薄く、よく分からないまま投票する人が多いのが実情ではないか。過去、罷免された裁判官は1人もいない。「×」の割合も最高でも15%台で、近年は10%を下回る。形骸化が指摘されているのは事実だ。
 一方、投票の判断材料はある。国政選挙の「1票の格差」訴訟は、裁判官の意見は分かれる。夫婦別姓を認めない規定を「合憲」とした21年の決定も意見が分かれた。今回の在外国民審査訴訟も材料である。
 有権者が関心を持つことで裁判官も緊張感を持つ。せっかくの権利を形骸化させたくはない。

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